ドングリに溝を彫ってY字の枝に固定する高度なスキル
温帯地域に生息するリスは日常的に木の実を地面に埋めたり、木の幹の穴に保管して、餌が取れない時期の保存食として利用しています。
(中には埋めた場所を忘れてしまって、知らぬ間に地面からドングリの木が生えることもありますが…)
ところが、熱帯雨林ではドングリを地面や木の穴に隠しても、気温や湿度が高すぎて急速に分解されたり、発芽したりしてしまうのです。
これでは保存食として活用できません。
そんな中、中国南部に浮かぶ海南島(かいなんとう)の熱帯雨林を調査していた研究チームは、森の中で非常に奇妙なものを発見しました。
Y字に分かれた枝の間にドングリがしっかりと固定されていたのです。それも1つや2つではなく、無数に発見されました。
さらにはドングリの表面に指輪がめり込んだ痕のような溝が彫り込まれており、そこに枝がちょうど嵌まる仕組みになっていたのです。
これは明らかに偶然ではなく、何者かの手によるものでした。
そこでチームは熱帯雨林の各地点に赤外線カメラを設置し、誰がどのようにドングリを枝に挟み込んでいるのかを突き止めようと考えました。
その結果、2種の夜行性モモンガである「ハイナンクサビオモモンガ (学名:Hylopetes electilis)」と「ソメワケクサビオモモンガ(学名:Hylopetes alboniger)」の仕業であることが判明したのです。
撮影された映像を見ると、モモンガはドングリの表面に歯を使って器用に溝を彫り込み、Y字の枝の間にしっかり嵌め込んでいました。
研究者はこの技術について「大工さんが家具を接合するときなどに用いるほぞ継ぎという技術に似ている」と指摘します。
これは材木の一方に溝(凹部)をつけ、もう一方に溝に嵌まるような突起(凸部)をつけることで、接着剤なしに2つを接合する技術です。
モモンガはドングリの表面に枝の太さと同じ溝を掘り込むことで、ほぞ継ぎを再現していました。
モモンガの仕事は実に丁寧で、同チームのジョン・スペンス(John Spence)氏いわく「ドングリをしっかりと固定するために何度も噛んだり、位置を細かく調整していた」そうです。
そのおかげで、枝を乱暴にブンブン振ってもドングリはびくともしませんでした。
こちらがその証拠映像。
また、どのドングリも地上2メートル以上の空気にさらされた高さに設置されていました。
このことからモモンガたちは、湿度の高い熱帯雨林の中で、なるべくドングリを分解させずに長く保存できるような方法として、この貯蔵スキルを身につけたと予想されます。
地面や木の穴に隠すとすぐに分解してしまうことを理解しているのかもしれません。
加えて、モモンガたちはドングリが得られる親木から平均10~25メートル離れた場所の枝に保管する傾向がありました。
これは親木から十分に離れた場所に隠すことで、他の競争相手にドングリが見つかるのを防いでいるようです。
そして、彼らのドングリを広範囲に分散させて隠す行動は、ドングリの木の分布を広げることにも役立っていると考えられます。
今回の結果を受けて、チームは「この食糧の保存方法は慎重に考え抜かれたプロセスであり、モモンガの高度な認知能力と工学的スキルを示すものだ」と述べました。