ケトン食ががん患者の生存期間を伸ばす?
大阪大学では、2013年から2018年の間、ケトン食療法を行っている進行がん患者を55人の観察を続けました。
その結果、ケトン食療法を3カ月以上続けた場合、55人中37人に有望な結果が得られたと報告しています。
今回の論文は、その55人全員(うち2人はその後体調悪化により脱落)を2023年3月まで追跡調査を行ったものです。
脱落してしまった2名を除く53人を、ケトン食療法継続12カ月以上21人と、12カ月未満32人の2群に分け、観察を行いました。
その結果が以下のとおりです。
12カ月以上 | 12カ月未満 | |
ケトン食療法の実施期間の中央値 | 37カ月 | 3カ月 |
死亡数 | 10人(21人中) | 31人(32人中) |
生存期間の中央値 | 55.1カ月 | 12カ月 |
ケトン食を12ケ月以上続けた群はそうではない群に比べ、死亡数が少なく生存期間も長いことが分かります。
そのほか、12ケ月以上ケトン食療法を続けた群のほうが、血液検査の結果も良好になったほか、患者当人が感じる痛みが減少し、生活の質向上が向上したと感じる人が多い、という結果が出ました。
一例として、48歳のときにRAS変異結腸がんと多発性両側肺転移があると診断された女性を紹介します。
この患者は、がん治療として標準的な化学療法や放射線治療を受けつつケトン食療法も継続して行っていたところ、12月のCT検査では肺と肝臓の転移が減少しました。
治療中に軽度の低カリウム血症(カリウム摂取不足により起こる病気)、高脂血症(血液中の脂質の値が高すぎる症状)などが起き医療的な介入はあったものの、重篤な副作用は起きませんでした。
2023年3月もケトン食療法を継続していますが、全身状態は良好です。
ケトン食療法の今後の展望と注意点
今回の論文は「ケトン食療法を続けたがん患者のほうが長期的に生存できた」という調査結果に関する報告でした。
がん細胞は糖を栄養分として成長する特徴があるものの、なぜケトン食療法を継続した群のほうが生存期間が長くなったのか、本当にケトン食療法に効果があると言い切れるのか、といったことは明らかにはなっていません。
また、この観察において、ケトン食療法は医師や管理栄養士の指導の元行われている点にも注意してください。
ケトン食はダイエット中の人も取り入れることもあるから気軽に始められるように感じますが、実は嘔吐、下痢、便秘、倦怠感といった状態に陥ることもあります。
健康な人でもケトン食の持続には注意が必要であるため、てんかん患者やがん患者にとってはより慎重な進めなくてはなりません。
食べ物を変えるだけで自宅で気軽にできると思うかもしれませんが、専門家の指示なしで進めていくことは危険を伴います。
何か起きたときには医師による医療行為を受けることは必須です。
そのため、ケトン食療法を試したいと考えるときは勝手に自分で取り入れるのではなく、必ず医師の指示を受けながら行うようにしてください。
簡単に導入できると思いがちなケトン食療法ですが、がんを扱う医師がケトン食療法について知り、患者に対して正しい知識を提供することが必要です。
そのため、今後はより多くのがん患者がケトン食療法を受けられるように、各病院で環境を整えられることが求められます。