リズム感はどうやって発生しているのか?
私たちは皆、得手不得手の差はあれど「リズム感」をもっています。
⾳楽のビートやネオンの点滅、列車の振動など、あらゆる周期的なものに対して、リズムを感じることが可能です。
リズムを感じているとき、私たちの脳内では周期的に繰り返されるパターンを再現した「内部モデル」が作られていると言われます。
例えば「ズン・チャ♪ズンズン・チャチャ♪」が1サイクルと認識すれば、それをモデルとして脳内で周期的に繰り返すのです。
この内部モデルによる予測があるおかげで、歌に合わせて時間遅れなく⼿拍⼦できたり、テンポの乱れに気づくことができます。
(聴こえてくるリズムが急に「ズン・チャ♪ズンズン・チャ♪」になると、内部モデルに従って、最後のチャが一つ抜けているのにすぐ気づける)
さらに音楽を聴いていると体が自然に動いてしまうことがあるように、リズム知覚(内部モデルの構築)と並行して「リズムへの同期運動」が脳内でリンクしていると考えられます。
先行研究では実際、リズムを感じているときに体を動かしていなくても、脳内の感覚野とともに運動野が活発化することが分かっているのです。
よってリズムを感じているとき、脳内には外部リズムを再現する「内部モデル」と、リズムに合わせた「運動準備」の少なくとも2種類の情報があると予想されます。
ただし、この2つの情報が脳のどこで担われているのかは分かっていませんでした。
「リズム知覚」と「リズム運動」を担う脳領域を特定!
そこで研究チームは、以前からリズムを知覚したときに強く活性化することが知られていた「小脳」と「⼤脳基底核」がどのような情報を担っているのかを調査。
実験ではサルを対象に、視覚刺激を一定のテンポで点滅させて、それが急に⼀拍抜ける(欠落する)と眼を動かして報告するように訓練しました。
現れるはずの刺激が「無い」ことを検出するためには、刺激のタイミングが正確に予測できなければなりません。
このとき、視覚刺激の繰り返しは「リズムの知覚」の情報を、眼球運動は「リズムへの同期運動」の情報を担います。
そして各脳領域の神経活動を記録したところ、小脳は「感覚」の情報を、大脳基底核は「運動」の情報をより強く担っていることが判明しました。
つまり、小脳は外界から入力される周期的なリズムの「内部モデル」を脳内に生成し、大脳基底核はそのモデルに基づいた「運動準備」に関与すると考えられるのです。
この仕組みは私たちヒトにも当てはまると推定されています。
というのも以前の研究で、ヒトの⼩脳と⼤脳基底核はともにリズム知覚やリズミカルな運動の制御に関与していることが知られていたからです。
ただ両部位の機能の違いまでは明らかにされていませんでした。
しかし今回の研究から、私たちのリズム感は、小脳がまず外部のリズムを脳内でモデル化し、それをもとに大脳基底核がリズムに合った運動を作ることで成り立っていると考えて良さそうです。
その一方で、小脳(感覚)から大脳基底核(運動)への情報変換がどこで、どのように行われているかはまだ解明されていません。
もしかしたら、この脳内の情報変換の迅速さに個人差があり、それによってリズム感のあるなしが生じているのかもしれません。