巨大ウナギがネッシーの正体なのか?
通常DNAは皮膚や毛、骨など生物の体の一部から直接DNAを採取されます。
しかし近年のDNA分析技術の進歩により、空中や水中など環境中に拡散した生物のDNA「環境DNA」を回収し分析することが可能になってきました。
そこで2018年には、ネス湖の環境DNAを分析することで、ネッシーの正体を確かめようとする調査が実施されました。
もしネッシーが噂通り恐竜ならば、ネス湖には爬虫類のパターンを示す環境DNAが豊富に含まれているはずです。
しかし結果は残念なものになりました。
ウナギのものと思われる大量のDNAが検出された一方で、チヨウザメやナマズなど他の大型魚や爬虫類のDNAはほとんど検出されなかったからです。
そのため研究者たちは、中世から現代に至るまで語り継がれてきたネッシーの正体は、巨大ウナギであると結論づけました。
ウナギの体の構造と機能は、細長い体形、一対の胸鰭、強力な筋肉組織と高振幅の曲がりくねった動き、厚い表皮と暗い色素胞を備えた耐久性のある外皮によって特徴付けられます。
要するに、黒っぽくクネクネでヌルヌルしています。
そのためもし暗い水の中で巨大ウナギが泳いでいる様子がみられた場合、水の下に巨大な怪物がいると錯覚してしまっても、おかしくはないでしょう。
古くから伝わる民間伝承も、もしかしたら巨大ウナギをみたひとびとが怪物だと勘違いしたせいかもしれません。
このネッシーの正体が巨大ウナギだとする説はその後、一般の人々にも知られるようになり「ウナギ仮説」の認知は広がっていきました。
しかし、民俗動物学協会の研究者フロー・フォクソン氏による新たな研究は、ウナギ仮説に疑問を持っていました。
というのもヨーロッパウナギで記録された最大体長は0.932メートルであり、ヨーロッパウナギの生理学的に考えられる最大体長は1.3 メートルと推定されています。
一方、フェイクではあるものの外科医の写真で撮影されたネッシーのサイズは2.4 メートルほどで、一般的に目撃されるネッシーの推定サイズは約 6.1 メートルほどとされます。
そこで今回、フォクソン氏はネス湖やヨーロッパの他の淡水域からの漁獲データから2万匹以上のウナギについてサイズの分析を行いました。
結果、ネス湖で記録に並ぶ1メートルの大型ウナギがみつかる確率は5万分の1であり、メディアで騒がれているような6メートルを超える大きさがみつかる確率は本質的にゼロであることが判明します。
この結果は、ネッシーの正体は巨大ウナギではないことを示唆しています。
また研究論文の唯一の著者であるフォクソン氏は「新しい研究では、うなぎのように滑りやすいテーマに科学的厳密さがもたらされている」と述べています。
うなぎの滑りやすい性質と、ネッシーについての疑似科学が蔓延して科学的事実が滑りやすい状況をかけたユーモアなのでしょう。
正直ネッシーに関する研究は、社会心理学の方向から行う方が妥当に思えますが、興味深いことにネッシーの追跡は潜水艇、ソナー調査、水中聴音器、水中写真、ビデオ撮影、そして環境DNAなど、それぞれの時代の最新技術を投入して、繰り返し実施され続けています。
ここで利用されている技術はどれも民間や軍事において革命的な変化を起こしたものばかりです。
事実がどうあれ、ロマンあふれるネッシー捜索は科学技術が通る、ある種の登竜門になっているのかもしれません。