見た目に似合わず、かわいい果物の名前がつけられる
今回見つかった生物は南極付近の水深65〜1170メートルの間でトロール網をしていたときに捕獲されました。
トロール網は一般的に、長さ数十メートルの網を海に落とした状態で船を航行させることで大量の魚を捕獲する漁法です。
しかし網の中から見つかったのは、無数の腕や触手が生えた全長20センチほどの生物でした。
研究者によると、この奇怪な生物はウミユリ綱というグループに属する「ウミシダ」の一種とのことです。
ウミシダ類は体の中心からたくさんの腕を放射状に伸ばしており、海底の岩やサンゴに固着して生活します。
一般的には海中を漂うデトリタス(生物由来の残骸や微生物の死骸)を腕で取って食べているようです。
一方でウミシダの中には捕食者から逃げるために遊泳性を獲得した種もおり、新たに見つかった新種も遊泳ウミシダの一つでした。
チームは捕獲したウミシダの体を調べるため、頭頂部にある基部から無数に生えている触手を取り除いてみました。
すると、触手を生やす基部は大きさといい形といい「イチゴ」にそっくりだったのです。
そこでチームは、新種の英語名を「ナンキョクイチゴウミシダ(Antarctic strawberry feather star)」と命名しました。
また正式な学名は「Promachocrinus fragarius(プロマコクリヌス・フラガリウス)」としています。
属名のプロマコクリヌスは、南極の海にのみ生息する自由遊泳性のウミシダ類で、これまではプロマコクリヌス・ケルゲレンシス(Promachocrinus kerguelensis)という一種しか知られていませんでした。
種小名のフラガリウスはラテン語でイチゴを意味するフラガム(fragum)から取られています。
触手の先端にはツメのような突起が見られており、研究者らは「おそらく、海底につかまるときに利用するのではないか」と推測しました。
それから触手の下には、より太くて長い腕のような器官が20本生え出ています。
彼らが泳ぐときは、この長い腕を上向きにしてタコの足のように波打たせて移動するという。
こちらは2022年に水深1500メートル付近で撮影された遊泳ウミシダの泳ぐ姿です。
新種の20本という腕の数は遊泳ウミシダの中でも際立っており、研究者いわく、ウミシダの多くは(この映像のように)多くても10本程度だといいます。
さらに今回の海洋調査では、ナンキョクイチゴウミシダの他に合計で3種のプロマコクリヌス属の新種が発見されました。
これでたった一種だったプロマコクリヌス属は、一挙に4種が追加されたことになります。
研究主任の一人であるネリダ・ウィルソン(Nerida Wilson)氏は、本研究の成果を受けて「南極や深海のような生態系がいかに多様であるか、また海洋の豊かな生態系を維持する上で、これらの地域がいかに重要であるかを改めて理解するべきでしょう」と述べました。
深海は地球上で最も謎に包まれた世界の一つであり、新種が見つかることはまったく珍しいことではありません。
深海探査が進むにつれて、私たちの常識を覆すような未知の生物がさらに見つかっていくでしょう。