脳死男性に移植した「豚の腎臓」が1カ月以上働いていると判明!
現在、世界中で臓器提供者が不足しており、最も需要の高い臓器が腎臓です。
たとえばアメリカでは腎臓移植の待機リストには10万人が並んでいますが、腎臓移植が行われる件数は毎年2万5000件に過ぎません。
そのため移植用臓器不足を最終的に解決する手段として、動物の臓器、特に豚の臓器を人間に移植する方法が検討されています。
豚の臓器は人間の臓器と大きさが近く入手も容易なため、移植用臓器の供給源としては最適と考えられているのです。
しかし動物の臓器をそのまま人間に移植すると、人間の免疫システムに異物と認識されて攻撃を受け、破壊されてしまいます。
そこで今回、アラバマ大学の研究者たちは豚の遺伝子10個を書き換え(4つの豚遺伝子を削除し6つのヒト遺伝子を加えた)豚の臓器を「人間化」したものを使用することにしました。
そして実際に豚の腎臓が脳死者に移植され、経過が観察されました。
結果、豚の腎臓は患者体内で一週間にわたり機能し、クレアチニンと呼ばれる筋肉細胞が作る老廃物を血液から除去し、尿として排出できることが判明しました。
これまでにも豚の腎臓を移植する試みは何度か行われていましたが、実際に人体内部で生命維持機能を確認できたのは今回がはじめてとなります。
一方、ニューヨーク大学で行われた研究では、豚の遺伝子は「アルファガル」1つしか削除されていませんでしたが、免疫システムの教育を担う豚の胸腺が豚の腎臓の外層に埋め込まれていました。
(※アルファガルについては下記の記事参照)
こちらの移植では32日にわたって豚の腎臓が脳死者の体内で機能し、クレアチニンの排出も確認されました。
また32日間というのは、移植された豚の臓器が体内で機能した最長記録でもあります。
研究者たちは今回の結果から、豚の腎臓を生きている人間の患者に移植することが現実味を帯びてきたと述べています。
近年では臓器提供源を広げる試みとして、回復の見込みはないが脳死「していない」患者の心臓を一時的に停止させて医師による死亡認定を行い、その後心臓を再起動する手法「NPR(normothermic regional perfusion)」も実施されるようになってきました。
これは助かる命を少しでも救うための苦肉の策とも言えますが、現代の医療現場ではそれほどまでに臓器が足りていない現実があるのです。
しかし移植臓器を脳死者に依存するのには限界があり、多くの末期腎臓病患者たちが、移植を受けれないまま命を落としています。
もし必要な臓器を全て豚から調達できるようになれば、移植用臓器の供給不足は解消され、多くの人々の命を救うことになるでしょう。