ブタウオの皮膚には色を「見る」未知の細胞層が存在する
数年後、ブタウオのカモフラージュ能力に関心を持ったシュヴァイケルト氏は「皮膚の視覚」についての研究を開始しました。
現在、自分の皮膚色を動的に変えられる動物には頭足類、両生類、爬虫類、魚類など数多くの種類が知られています。
これら皮膚色を変える能力は全て、色素を持つ特殊な皮膚細胞の力を利用しています。
細胞の中にある色素粒子を凝縮させたり分散させることで光の透過と吸収を制御するとともに、反射する光(皮膚の色)を自在に選べるのです。
ブタウオの色素細胞も同様に、色素の制御によって光の透過と吸収を制御します。
そして主に白・赤・茶の3色を基本に、皮膚色をさまざまなパターンに1秒以内に変化させることが可能です。
他にもブタウオには雌雄同体という興味深い性質を持っています。
ブタウオは卵から孵化した直後は全てメスですが、身体が大きくなった個体や社会的に有利な立場に立った強い個体はオスに変化し、複数のメスと一緒にハーレムを形成します。
ブタウオのカモフラージュ能力の研究をはじめたシュヴァイケルト氏はまず、ブタウオの皮膚細胞の解析を行うことにしました。
脳が死んでいても皮膚の色が変えられるということは、皮膚細胞にもなんらかの光を検知する仕組みがあるはずだからです。
すると驚いたことに、ブタウオの皮膚では人間の網膜にも存在するオプシンと呼ばれる光検知タンパク質が存在することがわかりました。
さらに皮膚のどの細胞がオプシンを生産しているかを調べたところ、色素細胞の直下にオプシンを大量に含む未知の光検知細胞が配置されていることが判明します。
これまで多くの生物の視覚システムが調べられてきましたが、脊椎動物の皮膚で視覚に特化した細胞が確認されたのは、これが初めてとなります。
しかし直ぐに疑問が湧きました。
新たに発見された光検知細胞は「いったい何を見ているのでしょうか?」