光検知細胞は「皮膚の色」を内側から見ている
常識的に考えれば体の外側となるでしょう。
多くの動物たちは視覚を外部環境を調べるために使っているからです。
もしブタウオが2つの目に加えて皮膚全体で世界を知覚していたなら、生存確率を上げるのに大きく役立ちます。
しかし研究者たちは、ブタウオの光検知細胞が色素細胞の直下に存在することから、光検知細胞が色素細胞の色、つまり自分の皮膚の色をみている可能性もあると考えました。
そこでシュヴァイケルト氏は光検知細胞と色素細胞の関係を調べてみました。
すると色素細胞にある赤茶色がほとんどの青色光を吸収すると判明。
ブタウオが赤色をしているときには、オプシンに届く青色光が少なくなる一方で、ブタウオが白っぽい色をしているときには、オプシンにも青色光が多く届くことになります。
これは色素細胞が光検知細胞にとってある種のフィルターの役割をしている可能性を示します。
つまりブタウオの皮膚にある光検知細胞は、オプシンに届く青色光の強度を感知するだけで、自分の皮膚の色(色素細胞の状態)を知ることもできるのです。
「自分の皮膚の色を見る仕組みが何になるのか?」と思うかもしれません。
首が自由に動き、鏡やカメラのような文明の利器を持っている人類ならば必要性を感じないかもしれません。
しかしブタウオの首の可動性は人間に比べて遥かに低く、自分の皮膚がどんな色をしていて、背景に溶け込むのに正確な色をしているかを知るのはかなり困難です。
皮膚の色を変えるカモフラージュでは、色の変化を司る色素細胞の性能だけでなく、変化する自分の皮膚の色と周囲を見比べて適正なものに調整する能力が必須です。
そのためシュヴァイケルト氏らはブタウオの皮膚の光検知細胞は自分の皮膚の色を検知し、色素細胞に適切な調整指示を出すために使われていると結論しています。
この仕組みでは、光検知細胞が青色の光を検知すると何らかのスイッチがON状態になり、皮膚の色に関わる調節機構がスタートすると考えられています。
また、もし光検知細胞に体の外の色を検知する能力があった場合、脳など中枢神経の制御を必要としない皮膚だけで完結する「閉ループ調節システム」が存在する可能性もあるとのこと。
もしシュヴァイケルト氏が経験したように、この仕組みがブタウオの脳が死んだ状態でも機能するなら、カモフラージュ能力には必ずしも中枢神経が必要ではなく、皮膚の視覚信号だけでも機能させることが可能と言えるでしょう。
つまり光検知細胞が外部環境の色と自分の皮膚の色の両方を監視し、最適なカモフラージュができるように色素細胞を調節しているかもしれないのです。
ただ現在は光感知細胞の存在がやっと判明した段階であり、光感知細胞が他の細胞や神経とどのように接続されているかは不明です。
脳などの中枢神経が外部環境の色を感知して、皮膚の光検知細胞が得た皮膚色の感覚情報を中枢神経にフィードバックして、最終的な皮膚色の微調整を行っている可能性も捨てきれません。
(※この場合、シュヴァイケルト氏が過去に死んでいたと考えたブタウオは、瀕死であったものの脳や目がまだ生きて甲板の情報を色素細胞に送っていたことになります)
シュヴァイケルト氏は今後、光検知細胞が受け取った色の情報を他の細胞にどのように伝えるかを調べていきたいと述べています。