我慢をした後には、別のことにも我慢ができる「抑止波及効果」
嘘をつくときには、真実らしい話をでっちあげ、相手から疑われないよう振る舞わなければいけません。
その場では、真実を述べる状況よりも、自分の行動を俯瞰的にモニタリングし、行動を抑制する必要があります。
それゆえ、嘘をつく人は、相手の発言に対する反応が遅れたり、瞬きが多くなったり、手の発汗が増えたりします。
では、嘘をつくときの行動面の反応はどうすれば抑制できるのでしょうか。
研究チームは抑制波及効果(Inhibitory Spillover Efefct)に着目しました。
抑制波及効果とは、事前に行った自己制御の発揮が後続の(あるいは同時に行った)自己制御の能力を向上させる現象です。
たとえば、嫌なことがあると衝動で高カロリーなお菓子を食べてしまう人は、湧き上がってくるネガティブな思考を抑えると、お菓子をより簡単に我慢できるようになります。
ほかにも、「このボタンは絶対に押さないでください」という行動抑制の課題を受けた後だと、リスクのある意思決定を延期しやすくなります。
そのため、この抑制波及効果を上手く利用できれば、嘘をついた時にうろたえてしまう反応も抑えることができるかもしれません。
では嘘を誤魔化すための行動は、どのような抑制行動と同時に行うと効果的なのでしょうか?
ここで、抑制波及効果の研究でよく注目されるのが尿意を我慢することです。
排尿衝動を抑える行動は、筋肉を抑制する必要が生じるため、ここから抑制波及効果で認知的な抑制も期待できるというのです。
そこで研究チームは、参加者が尿意を我慢するような状況に置いて、嘘をついたとき行動を上手く制御できるのかを検討しました。
実験には、大学生22名が参加しました。
まず参加者は、死刑や銃の規制、LGBTQの権利に関する項目を含む社会・倫理的な問題についてのアンケートに回答しました。
次に参加者たちを、①真実を述べる人と②嘘をつく人の2つのグループに分け、アンケートの回答についてのインタビューに答えてもらっています。
今回の実験では、インタビュー前にさらに参加者を以下の2つのグループに分け、尿意を感じる強さに差を設けています。
①50 mlの水を飲む
②700 mlの水を飲む
そしてこのインタビューの動画を、回答者とは別に集められた大学生118名に見せて、嘘をついているか真実を言っているか判断してもらいました。
もし尿意の我慢による抑制波及効果が、嘘をつくときの自制心を強めるならば、嘘がバレにくくなるはずです。
さて、おしっこを我慢することでインタビュー時の行動と第三者評価には変化があったのでしょうか。