食べ物への新たな興味が「別腹」を生む
「感覚特異的満腹感」とは、特定の食品を摂取した後に感じる満足感の低下と、新たな風味や異なる食品に対する食欲の回復現象を指します。
この概念は、1956年にフランスの生理学者ルマネン氏(Le Magnen)によって初めて記述され、1981年にロールズ氏(B J. Rolls)らによって名付けられました。
食事をすると、私たちの脳は報酬中枢を刺激し、特定の化学物質が放出されます。これが「満腹感」です。しかし、同じ食品を食べ続けると、この快感は徐々に減少していきます。
その結果、すでに食べた食品への欲求は低下し、異なる風味の食品に対しては興味と共に食欲が湧き上がるのです。
ロールズ氏は、この現象を検証し1984年に論文として発表しました。研究では18〜26歳の46人を2グループに分け、一方には4つの食物を含む「多様コース」を提供し、もう一方には同じ食物だけの「単品コース」を提供しました。
結果、「多様コース」を食べた参加者には、既に食べた食品への欲求の減少と、次に提供される新たな食品への興味喚起がみられました。
さらに、「多様コース」の参加者は、より多く食べる傾向があることも示されました。「単品コース」のグループと比べ、全体的な食品消費量が44%増加していたのです。
これ以降この実験は、複数の研究者らにより再現されています。ここでは米メディアVoxの動画をご紹介します。
動画では、参加者がマカロニ・アンド・チーズを「満腹になった」というまで食べた後、アイスクリームを大量に食べる様子が紹介されています。満腹を訴えていた参加者は、マカロニ・アンド・チーズの3倍量のアイスクリームを平らげたと報告されています。
※なお、マカロニ・アンド・チーズは、米国人にとってのコンフォート・フード(なにがしかの感傷を呼び起こす、調理が簡単で高カロリーの高炭水化物食品)です。日本だと牛丼とか卵かけご飯などをイメージしてください。
これについてロールズ氏は「参加者は物理的に「満腹」だったわけではなく、単にマカロニ・チーズをこれ以上食べる気が失せ、何か違うものを欲していただけなのです」と説明します。
食べ過ぎにつながる印象のあるこの現象ですが、上手く利用すれば食育に役立つとも考えられています。
2013年に発表された研究によれば、子供は多様な野菜を提供された方が、単一の野菜よりもよく食べることが示されています。
ところで、この「感覚特異的満腹感」をダイエットの手段として利用できないのでしょうか?
単一食品への「飽き」を利用すれば、食べる量を減らすことができるように思われますが、科学はどう答えているのでしょう。