なぜ言語の処理スピードは40代から遅くなるのか?
研究主任のボブ・マクマリー(Bob McMurray)氏は、言葉の処理スピードが20代でピークに達し、40代で低下し始める正確な理由は定かでないものの、可能性として一つの説が考えられるといいます。
それは語彙の最大容量が40代半ばでピークに達するという仮説です。
マクマリー氏によると、人間が記憶できる語彙は約3万語で最大容量に達するという。
そうであれば、ある話し言葉を聞いて、それを理解するまでに類似する多くの言葉を脳内で処理しなければならなくなります。
自宅の本棚に例えてみましょう。
所有する本の冊数は年齢を重ねるごとに多くなっていくとします。
ある日、友人が訪ねてきて「〜という本を貸してほしい」と言われると、棚に並ぶ冊数が多いほど、該当する本を探し当てるのに時間がかかるでしょう。
要するにマクマリー氏は、話し言葉の処理スピードの低下は、脳の衰えというより、語彙の豊富さから生じるのかもしれないと考えるのです。
一方で、この話はどこか単純すぎる気もします。
若者であっても読書量が豊富であったり、あるいは言語学を専門とする若手研究者だと、一般的な40代に比べて大幅に語彙のキャパが多くなっていると予想できるからです。
そうした人々も話し言葉を理解するスピードは遅くなるのでしょうか?
もしそれが実証されれば、マクマリー氏の仮説も正しいことになりますが、これについては追加実験が必要です。
他方で今回の実験では、66歳〜78歳の高齢者の間で、話し言葉の理解スピードに「個人差」が見られることも示されました。
これについてマクマリー氏は、日常的にどれだけ社会に参加し、友人や他者と会話をしているかが関係していると指摘します。
高齢者でも普段からよく会話をしていれば、言語処理を行う脳領域が刺激され、言葉の理解速度も鍛えられるでしょう。
反対に、ほとんど誰とも話さない生活を送っていれば、発話能力や話し言葉の理解速度の衰えが進むと考えられます。
それらを踏まえ、日常的に会話を積極的にしていれば、話し言葉の理解スピードの低下は予防できるかもしれません。