少数精鋭による無双と避けられない損耗
アリの戦争は人間の戦争と同じ法則が働くのか?
答えを得るため研究者たちは、多数のオーストラリアアリとアルゼンチンアリを用意して、実際にアリたちに戦争を行ってもらいました。
先に述べたように、オーストラリアアリの体長は8㎜、アルゼンチンアリの体長は2㎜と体長は4倍も違い、質量に至っては40倍近くの差があります。
戦略ゲームの「Age of Empires2」で例えれば、オーストラリアアリが騎士、アルゼンチンアリが剣士と言えるでしょう。
調査に当たっては戦場となる飼育ケースにオーストラリアアリが20匹入れられ、ここに5~200匹のアルゼンチンアリが加えられ「戦争」が起こされました。
アリたちの戦争は非情であり、一度戦いが始まると相手を殲滅するまで終わりません。
結果、驚くべきことに全てのケースでオーストラリアアリが24時間以内にアルゼンチンアリを殲滅しました。
ゲームの騎士と違ってオーストラリアアリは大軍相手に「無双」していたのです。
しかしオーストラリアアリは無双状態にあったとはいえ、無敵ではありませんでした。
敵となるアルゼンチンアリの数が50、100、150、200と増えるにつれて、オーストラリアアリの戦死率が上がっていきました。
一方、興味深いことに、戦場となる飼育ケージの地形が複雑な場合、オーストラリアアリの損耗率が低くなることも判明しました。
人間、戦略ゲームのユニット、アリの3者のどれをとっても、地形の複雑さが少数精鋭を利する結果になったのは、興味深い一致と言えます。
では複雑な地形にコロニーをかまえているオーストラリアアリは、アルゼンチンアリの侵略から完全に守られているのでしょうか?
残念ながら答えはNOです。
複雑な地形が少数精鋭にとって有利なのは事実ですが、戦いが起こるたびにオーストラリアアリにも戦死者が出てしまいます。
この損耗は、オーストラリアアリをはじめとする普通のアリにとって痛手となりますがアルゼンチンアリにとってはたとえ200匹の損失でも大した問題ではありません。
普通のアリのコロニーは1匹の女王アリを中心に1000匹ほどの働きアリによって構成されます。
しかしアルゼンチンアリのコロニーの場合、女王アリだけで1000匹、働きアリの数に至っては100万匹を超える規模に到達します。
爆発的な繁殖力を誇るアルゼンチンアリにとって、相手の戦力の高さは時間稼ぎできる長さに過ぎず、勝利を手にすることには変わりないのです。
侵略的外来種のワースト100に並ぶ脅威は並大抵のものではありません。
もしSFならばエイリアンの侵攻に対して時間稼ぎをしている間に一発逆転をする展開も期待できますが、オーストラリアアリにとっては人間による駆除作戦の実施に頼るしかなさそうです。