シロアリに擬態する新種の甲虫が発見される
研究チームは、オーストラリア北部に生息する甲虫Austrospirachtha carrijoi(またはA. carrijoi)を発見しました。
これはハネカクシ科(Staphylinidae)の中でも希少なAustrospirachtha属の新種です。
ハネカクシの中には、軍隊アリの姿に似ている種が存在しており、アリと一緒に行進してその卵や幼虫を食べたりします。
また共生という形をとって、アリからエサをもらったり盗んだりするケースもあるのだとか。
今回新たに発見されたA. carrijoiも、同じく擬態によってアリからエサをもらいます。
ただし、体全体がアリに似ているのではなく、腹部だけを肥大させてシロアリに擬態しています。
上から見ると一見普通のシロアリに見えますが、横から見るとA. carrijoiの本当の姿が分かります。
A. carrijoiはスリムな頭と体や脚を持っていますが、膨張した腹部がそれら本物の姿を覆い隠しているのです。
そしてこのシロアリのレプリカは非常に精巧であり、シロアリの頭部・腹部だけでなく触角や脚まで存在しています。
研究チームは、A. carrijoiの口は小さいため、他のハネカクシのように卵や幼虫を食べたりはしないと考えています。
一方、働きアリは相互に口で消化された食物を与える性質があり、これによって栄養やフェロモンなどを与えたり交換したりしています。
そこでA. carrijoiは、自分が擬態して仲間だと錯覚させることで、他のシロアリから栄養をもらうことにしました。
しかしシロアリの働きアリと兵隊アリには眼がありません。
彼らは「見て判断する」ことができないのに、どのようにA. carrijoiを仲間だと錯覚するのでしょうか?
シロアリたちは視覚に頼らずとも、互いに触れ合った時に、その形や大きさ、表面の質感から仲間だと判別できます。
また仲間や卵に自らが分泌する化学物質を塗布する習慣があり、これが仲間や卵を見分ける助けになるようです。
実際、卵の偽物をこの卵認識物質でコーティングすると、アリたちは気づかずに卵の偽物を巣へと持ち帰るようです。
そしてA. carrijoiも同様の手法を用いているのかもしれません。
シロアリたちがA. carrijoiの腹部の精巧なレプリカを触ると、その形状から仲間だと錯覚するのでしょう。
加えてA. carrijoiは、シロアリから化学物質を受け取ったり、同様の成分を自分で生成したりして、シロアリたちを騙すようです。
これらを考えると、A. carrijoiは働かずにエサを恵んでもらう擬態のスペシャリストだと言えるでしょう。
一生懸命働き続けるシロアリたちとは、なんとも対照的ですね。