睡眠は複雑な掛け算の暗記を手助けする
睡眠中でも人間の脳は起きている間に学んだことを反芻しており、それによって記憶が定着していきます。
このため、単語学習は寝る前に行うと学習効率が上がるという研究結果も出ています。
しかし、最新の研究で睡眠時の反芻による記憶の定着は単語学習などのシンプルな暗記に留まらないことが明らかになりました。
イギリス、ラフバラー大学数学的認知センターの研究グループによると、2桁を含む複雑な掛け算でも、睡眠によって暗記の精度が向上したというのです。
この研究はRoyal Society Open Scienceに2023年9月27日付けで掲載されています。
学習後に睡眠を挟んだ方がテストの成果がUP
実験には18~40歳までの成人77人が参加しました。
被験者は1桁×2桁の掛け算について学習し、その10.5時間後、その掛け算についての答えを計算せず暗記した結果で示すように指示されます。
学習後の時間の過ごし方については睡眠を挟むパターンとずっと覚醒しておくパターンの2つがあり、被験者たちはそれぞれの実験を期間を1週間空けて行いました。
その結果、睡眠を挟んだパターンの方が、10.5時間後のテストで正答率が有意に高くなっていたのです。
なお、睡眠を挟むパターンと覚醒しているパターンの順序は被験者によってランダムに決められましたが、順序による差は特にありませんでした。
最初の「掛け算のレベル」は関係なし
単語学習と掛け算の暗記の大きな違いは人によって初期の知識レベルが異なることです。
今回の被験者はすでに掛け算を習得済である成人に限られましたが、中には掛け算が得意な人もいれば、苦手な人もいました。
研究者たちはそのような被験者たちと初期レベルが暗記能力向上にどのような影響を及ぼすか調査しましたが、睡眠による暗記能力の向上は、初期の知識レベルと無関係に起きていました。
この結果から、同研究グループは小学生など掛け算レベルが乏しい人こそ睡眠前学習のメリットは大きいと述べています。
日本の小学生はみんな九九を暗記しますが、これをさらに推し進めた2桁以上の四則演算も暗記させる教育は今世界的にもトレンドです。
難しい応用問題に対しても、暗記した計算結果を使いながら解けば、それを計算する分のリソースを問題を解くことにあてられるため、数学の応用学習にもつながることが期待されています。
しかしそもそも睡眠がサポートするのは、記憶の定着が重要な暗記学習だけではありません。起きている間に解決できなかった問題に対しても重要な働きをするのです。