力学的な視点から見た草木の構造
光合成によって栄養を得る植物は、他の植物の影にならないよう背を高くするほど生き抜くのに有利となります。
しかし、背が高くなると自重によって倒れてしまうリスクも生まれます。
自重で倒れてしまわないようにする最もシンプルな方法は太くて構造が密な硬い体を持つことです。
木の構造がこれにあたります。
一方、草は一般的に細く柔らかい中空の構造を持っていて、背が高くなると自重を支えることが難しくなります。
この体の構造の違いがシンプルに草木の分類と考えられますが、先に述べた通りこの考え方では上手く分類できない植物があります。
それが1つは竹であり、彼らは中空の構造でありながら非常に高く成長します。
また、2mを超える高さになるヒマワリやセイタカアワダチソウも、木の幹より細く中空の茎でありながら、大きな体を支えることができます。
つまり木と草の違いは、体の構造ではなく自重を支える力学的な方法なのではないか? というのが今回の研究グループの考えなのです。
もしこの自重を支える「硬さ」の要素を明らかにできれば、草木を分類する新しい方法になるかもしれません。
そして草が自重を支える、その力学的な要因が竹になければ、例え年輪がなく中空の構造であっても竹は木であるということができるはずです。
水分によって生じる「硬さ」
草は自重で体を支えられなくなっても、木のように完全に折れてしまうことはあまりありません。
くにゃっとしおれてしまっても、構造的な破損がなければ水を与えてしばらく待てば、しゃんと立ち上がることができます。
草の中空の部分が水で満たされると、しおれた草もまっすぐ立ち上がるのです。
この現象から北海道大学工学大学院の研究グループは「草は内部からの水の圧力で硬さを獲得しているのではないか?」と推測しました。
バルーンアートで使われるような細長い風船は、空気を入れる前はふにゃふにゃのゴムですが、膨らませると張力によって硬い筒のようになります。
この現象と同じように、植物は茎内部の水の圧力によって全方位に引っ張る力(張力)が生じていると考えたのです。
同研究グループは中空円筒状の計算モデルを用いて、この「内部水分による張力」と「実現可能な最大高さ」の関係式を得ました。
その結果、内部水分による張力が自重を上回った場合、自重によって倒れるリスクを完全に回避できることが明らかになりました。
たとえ張力が自重を下回っていたとしても最大高さには大きな影響を与えます。
例えば、張力が自重の半分だった場合でも、最大高さは張力が考慮されない場合の2倍以上になります。
次に同研究グループはこの計算モデルを用いて、すでに重量や高さのデータがある76種類の草の張力と自重の関係性を調査しました。
その結果76種類すべてにおいて、内部水分による張力が自重を上回っており、自重によって倒れるリスクを完全に回避できていることが明らかになったのです。
つまり草は「水分によって生じる疑似的な硬さ」を主として体を支えています。
この草の定義を利用することで、力学的な観点から草と木を明確に分類できる新たな法則が生まれました。