生まれてきたキメラサルは脳まで緑色に輝いていた
キメラ胚の作成が終わると、研究者たちは40匹の代理母の子宮に移植し、12匹の代理母が妊娠、そのうち6匹が正常に出産し、4匹では流産が確認できました。
研究では、このうち出産までたどりついた1匹のオスザルと流産した胎児1体が、全身に高レベルの移植細胞が含まれるキメラであることが確認されました。
特に生きてうまれたオスザルでは移植細胞の濃度がより高く、異なる26の組織を調べたところ、移植細胞の寄与が平均で67%(最小21%~最大92%)に及んでいることが判明します。
上の図では眼球や指先にも蛍光色素が蓄積し、緑色に発色している様子がわかります。
また脳・肺・肝臓・回腸などいくつかの臓器では高い比率を示したことが確認されており、キメラサルの赤ちゃんの脳も上の図のように緑色に輝いていました。
ただ全体としてキメラサルの妊娠率は非常に低く、唯一生きて生まれてきたオスザルも健康問題を抱えており、低体温症と呼吸困難を発症したため生後10日目に安楽死の処置が行われました。
健康状態が悪かった原因の1つに研究者たちは、移植細胞と宿主細胞のタイムラグをまだ完全に消せていないことを上げています。
事前調整によって移植細胞が高効率で存在するようにはなったものの、健康を支えるには十分ではなかったようです。
研究者たちは安定したキメラを作るには今後も実験を繰り返し、キメラ製造過程を最適化する必要があると述べています。
また今回の技術を利用して、マウスやブタ、サル胚の中に混ぜられるヒト細胞を効率よく増殖させ特定の臓器に集中させられれば、動物の体内でヒト細胞でできたヒト臓器を作れる可能性があります。
たとえば2020年に行われた研究ではヒト細胞を含むマウス胚のキメラを作成することに成功しています。
また2021年に行われた研究ではヒトとサルのキメラ胚を成長させることに成功しました。
さらに2023年の9月に報告された研究では、豚の体内でヒトの腎臓を成長させる、臓器工場としてのキメラを作成する試みが行われました。
ただヒト細胞を持つ動物のキメラを成長させるには、慎重でなければなりません。
たとえば手違いで脳などの中枢神経系の90%がヒト細胞で作られたマウスやサル、ブタが作られてしまった場合、倫理的に受け入れがたい結果をもたらすことになるでしょう。