重度精神疾患(SMI)とは?
精神疾患とは一般に、やる気の喪失や気分の落ち込み、妄想や幻覚などを主な症状とする病気です。
特にストレス過多の現代社会においては患者数が年々増加の一途を辿っており、日本では30人に1人が何らかの精神疾患を持っていると言われています。
しかし精神疾患は症状の軽いものから重いものまで範囲が広く、当人が精神疾患であることに気づかないケースも少なくありません。
その一方で、中には「重度精神疾患(severe mental illness:SMI)」と呼ばれる、重い症状を特徴とする疾患があります。
SMIに分類されるのは例えば、現実とのつながりを喪失したり、強い幻覚や幻聴に襲われる「統合失調症」、気分の高まりや落ち込みが激しく、躁状態とうつ状態を繰り返す「双極性障害」、重度の気分の落ち込みに加えて、深刻な妄想や幻覚をともなう「精神性うつ病」などです。
またSMI患者は健康的な一般人口に比べて平均13〜30年も寿命が短いと推定されています。
その原因について専門家らは、SMI患者の自死率が高いことの他に、身体疾患を併発するリスクも高いからではないかと予想していました。
そこで研究チームは英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)と共同で、SMIと身体疾患の関連性を調べることにしました。
SMI患者は身体疾患を併発する可能性が1.84倍に!
今回の調査では、2023年1月までに医学雑誌に掲載された先行研究から19件を集めてメタ分析を実施。
これらには計19万4123人のSMI患者のデータが含まれており、彼らの健康状態を精神疾患のない計766万590人の対象群と比較しました。
そしてデータ分析の結果、SMI患者は対照群の人々と比べて、何らかの身体疾患を患っている可能性が1.84倍も高いことが判明したのです。
特にこの研究では、重度の精神疾患を抱えている人は、心血管疾患・高血圧・てんかん・呼吸器障害・腎臓および消化器疾患・がん・代謝性疾患などのいずれかを同時に発症していることが分かりました。
この結果は事前の予想通り、SMI患者における寿命の短さに、身体疾患の併存が寄与していることを示唆するものです。
これを受け、研究主任でアングリア・ラスキン大の公衆衛生学教授であるリー・スミス(Lee Smith)氏は次のように述べました。
「精神的な健康を保つことは、意思決定や人間関係の構築を含め、私たちが個人および社会生活を営んでいく上で欠かせない能力です。
しかし今回の研究から、SMI患者が身体疾患を発症するリスクが有意に高いことが明らかになりました。
SMIと身体疾患との複雑な関係は、日常生活を営む上での能力を阻害するのみならず、治療費や治療失敗リスクの増大、病気の再発、平均寿命の短縮など、広範囲に悪影響を及ぼすと考えられます。
SMI患者の治療および社会復帰を改善するためには、精神面だけでなく身体面をも踏まえた総合的な治療のアプローチが必要となるでしょう」