現代社会に蔓延する「孤独」の危機
世界保健機関(WHO)は最近、「孤独は世界的な公衆衛生の問題であり、現代人に差し迫った健康上の脅威である」と宣言しました。
アメリカ公衆衛生局長官で医学博士のビベク・マーシー(Vivek Murthy)氏は、今年5月に公開したレポートで「孤独の健康への悪影響は1日15本分の喫煙に相当する」と指摘しています(Our Epidemic of Loneliness and Isolation, 2023:PDF)。
この例えは決して大げさなものではありません。
実際にこれまでの研究で、慢性的な孤独感が心身ともに様々な疾患の発症リスクを高めることが示されているのです。
例えば、社会的な繋がりの喪失による孤独感は、心臓病のリスクを29%、脳卒中のリスクを32%増加させ、さらに不安・うつ病・認知症・呼吸器系疾患・ウイルス感染のリスクを高めることが分かっています。
現代人はこうした孤独の悪影響を受けやすい状態にあります。
職場や学校、地域での付き合いなど、社会や集団の構造がどんどん複雑化することで、自分に合う居場所を見つけることが難しくなっているのです。
また都市化により集合住宅が増えた結果、私たちは隣に誰が住んでいるのかもよく分からない状態にあります。
加えて、ネットやリモート技術の発達に伴い、仕事も在宅でできますし、買い物もスマホ一つで簡単に済ませられます。
人と人との身近な繋がりは希薄になり、その穴を埋めるために私たちはSNSに居場所を求めます。
しかし匿名性を基本とするSNSは、相手がどんな人物でどこに住んでいるのかも不明瞭であり、簡単にお互いを傷つけあってしまいます。
こうなると現代人の孤独感はますます深まってしまうばかりです。
さらにここに追い打ちをかけるように、新型コロナウイルスのパンデミックが襲来し、多くの人が孤立した状況に追いやられました。
2022年の政府調査では、日本在住の約2万人(16歳以上)を調査したところ、実に40%が孤独感を感じていることが判明しています(日本経済新聞, 2023)。
しかし、親密な人間関係を構築することは簡単なことではありません。多くの人はそれができなくて孤独に悩まされています。
では、人間関係の構築を回避して孤独による健康への悪影響を免れる方法はあるのでしょうか?
そこでサバンチ大学の心理学研究チームは、新たに友人をつくったり、地域のコミュニティに参加しなくても、幸福度を高められる簡単な方法を検証することにしたのです。