東アフリカのライオン、小さなアリのせいで狩猟成功率が下がる
東アフリカのライオン、小さなアリのせいで狩猟成功率が下がる / Credit:Todd M. Palmer(University of Florida)_Tiny ant species disrupts lion’s hunting behavior(2024 EurekAlert)
biology

外来種の小さなアリがライオンの狩りを妨害している!自然界の意外な繋がりとは?

2024.01.29 Monday

風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがあるように、「ある出来事が、巡り巡って思いがけないところに影響を与える」なんてことがあるものです。

最近では、「サバンナに外来種のアリが持ち込まれることで、ライオンの狩りの成功率が下がる」ことが発見されました。

これらの関連性を確認したのは、アメリカのワイオミング大学(University Of Wyoming)に所属するジェイコブ・R・ゴヒーン氏ら研究チームです。

では、一体どのようにして、「外来アリ」が「ライオンの狩りの成功率低下」へと繋がっていくのでしょうか。

ここでは、サバンナで生じている複雑な連鎖について解説します。

研究の詳細は、2024年1月25日付の学術誌『Science』に掲載されました。

UW-Led Research Shows Invasive Ants Change Lion Predation in Kenya https://www.uwyo.edu/news/2024/01/uw-led-research-shows-invasive-ants-change-lion-predation-in-kenya.html Tiny ant species disrupts lion’s hunting behavior https://www.eurekalert.org/news-releases/1032016
Disruption of an ant-plant mutualism shapes interactions between lions and their primary prey https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg1464

東アフリカのサバンナにおける「在来アリと木の共生関係」

江戸時代からあることわざ風が吹けば桶屋が儲かるには、次の由来(経緯)があるようです。

大風が吹くと土埃が立ち、視覚障がい者が増加する。

視覚障がい者は三味線で生計を立てようとするので、三味線の需要が高まる。

三味線にはネコの皮が使用されるので、ネコが減る。

ネコが減るとネズミが増え、ネズミにかじられる桶も増える

桶を売る桶屋が儲かる

一見無関係に思える出来事であっても、実は繋がっているというわけです。

これはかなり強引なネタ話ですが、自然界には似たような一見無関係の事象が繋がって起きる不思議な現象が存在します。

東アフリカのサバンナ
東アフリカのサバンナ / Credit:Patrick D. Milligan(University of Nevada)_Invasive ants change lion predation in Kenya(2024 EurekAlert)

最近、サバンナで生じている外来種アリの持ち込み」と「ライオンの狩りの成功率の低下」がその一例です。

外来種であろうと小さなアリとサバンナの王者ライオンの狩りには、何の関係性も無いように思えます。

しかし30年にわたる観測と研究の末、この現象の背景に、アリ、木、ゾウやキリン、ライオン、シマウマ、スイギュウが関係しており、外来アリの存在とライオンの狩りの成功率がつながっていることが分かったのです。

その関係性を知るために、順を追って解説します。

まず、サバンナに生息するアリに注目しましょう。

「クレマトガスター(学名:Crematogaster)」属の一種
「クレマトガスター(学名:Crematogaster)」属の一種 / Credit:Wikipedia Commons_Crematogaster

アフリカのサバンナには、在来種である「クレマトガスター(学名:Crematogaster)というアリ属が生息しています。

この在来アリは、東アフリカの多くの地域で生育している木アカキア・ドレパノロビウム(学名:Vachellia drepanolobium)」と共生関係を持っています。

アカキア・ドレパノロビウムには、枝に「こぶ」と呼ばれる膨らんだ部位があり、在来アリたちはこの内側を噛んで空洞にし、小規模なコロニーを形成します。

アカキア・ドレパノロビウム
アカキア・ドレパノロビウム / Credit:Wikipedia Commons_アカキア・ドレパノロビウム

またアカキア・ドレパノロビウムはアリが好む蜜を分泌し、アリたちのエサも供給しています。

一方アリたちは、住処とエサを得る代わりに、草食動物たちからこの木を守ります。

ゾウやキリンたちはアカキア・ドレパノロビウムの葉を好んで食べようとしますが、この木に住まうアリたちが一斉に噛みついて攻撃してくるため、彼らは長時間1つの木から葉を食べ続けることができないのです。

「虫こぶ」とそこに群がるアリたち
「虫こぶ」とそこに群がるアリたち / Credit:Wikipedia Commons_アカキア・ドレパノロビウム

巨大な体を持つ草食動物たちも、膨大な数のアリたちが噛んで放出するギ酸により、その場からすぐに離れざるを得ません。

東アフリカのサバンナでは、こうした在来アリの働きにより、アカキア・ドレパノロビウムが食べつくされることなく、美しい景観を保っています。

しかし、この絶妙なバランスを崩す存在が現れました。

次ページ外来アリがサバンナを破壊する

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