東アフリカのサバンナにおける「在来アリと木の共生関係」
江戸時代からあることわざ「風が吹けば桶屋が儲かる」には、次の由来(経緯)があるようです。
大風が吹くと土埃が立ち、視覚障がい者が増加する。
視覚障がい者は三味線で生計を立てようとするので、三味線の需要が高まる。
三味線にはネコの皮が使用されるので、ネコが減る。
ネコが減るとネズミが増え、ネズミにかじられる桶も増える
桶を売る桶屋が儲かる
一見無関係に思える出来事であっても、実は繋がっているというわけです。
これはかなり強引なネタ話ですが、自然界には似たような一見無関係の事象が繋がって起きる不思議な現象が存在します。
最近、サバンナで生じている「外来種のアリの持ち込み」と「ライオンの狩りの成功率の低下」がその一例です。
外来種であろうと小さなアリとサバンナの王者ライオンの狩りには、何の関係性も無いように思えます。
しかし30年にわたる観測と研究の末、この現象の背景に、アリ、木、ゾウやキリン、ライオン、シマウマ、スイギュウが関係しており、外来アリの存在とライオンの狩りの成功率がつながっていることが分かったのです。
その関係性を知るために、順を追って解説します。
まず、サバンナに生息するアリに注目しましょう。
東アフリカのサバンナには、在来種である「クレマトガスター(学名:Crematogaster)」というアリ属が生息しています。
この在来アリは、東アフリカの多くの地域で生育している木「アカキア・ドレパノロビウム(学名:Vachellia drepanolobium)」と共生関係を持っています。
アカキア・ドレパノロビウムには、枝に「虫こぶ」と呼ばれる膨らんだ部位があり、在来アリたちはこの内側を噛んで空洞にし、小規模なコロニーを形成します。
またアカキア・ドレパノロビウムはアリが好む蜜を分泌し、アリたちのエサも供給しています。
一方アリたちは、住処とエサを得る代わりに、草食動物たちからこの木を守ります。
ゾウやキリンたちはアカキア・ドレパノロビウムの葉を好んで食べようとしますが、この木に住まうアリたちが一斉に噛みついて攻撃してくるため、彼らは長時間1つの木から葉を食べ続けることができないのです。
巨大な体を持つ草食動物たちも、膨大な数のアリたちが噛んで放出するギ酸により、その場からすぐに離れざるを得ません。
東アフリカのサバンナでは、こうした在来アリの働きにより、アカキア・ドレパノロビウムが食べつくされることなく、美しい景観を保っています。
しかし、この絶妙なバランスを崩す存在が現れました。