280万年前に他の恒星が「オールトの雲」まで入り込んでいた
研究対象となったのは「HD 7977」と呼ばれる、太陽に似た恒星(G型主系列星)です。
(※地球近傍に存在する8割の恒星が太陽質量の小さな赤色矮星であることを考えると「HD7977」は比較的大きな星であると言えるでしょう)
「HD7977」は今から280万年前に太陽系と近接遭遇を起こしたことが知られており、接近によってオールトの雲の奥深くまで入り込んで、そこにある小天体を大きくかき乱したと考えられています。
研究では「HD7977」が太陽からおよそ3万1000天文単位(0.5光年)から3900天文単位(0.06光年)の範囲で通過した可能性について検討されています。
上の図はHD 7977 に似た星の近接遭遇が5600 万年前に起きたと仮定した場合の、地球の軌道の不確実性を示す図となっています。
経路を示す線に幅が生じているのは、それだけ不確実性が増加したことを示しています。
結果、最も遠いケースでは地球軌道にほとんど影響がなかったものの、近づくにつれて影響が大きく増し、3900天文単位まで接近したケースでは、地球軌道に乱れを生じさせ予想される計算結果に大きな「不確実性」を及ぼしたことが判明しました。
(※3900天文単位まで接近した可能性は5%ほどと考えられています)
この結果は、これまで考えられていたよりも、他の恒星との近接遭遇が地球軌道に大きな影響を及ぼしていると結論しました。
また近接遭遇の頻度を再計算したところ、1つの恒星が100万年ごとに5万天文単位(0.79光年)以内を通過し、2000万年ごとに1万天文単位(0.16光年)を通過することが示されました。
地球が誕生したのは今から45億4300万年前です。
この数値は、過去に起きた気候変動のいくつかが、近接遭遇によって引き起こされた可能性があることを示すと共に、地球軌道を過去に向けて遡ってシミュレーションすることが如何に困難であるかを示しています。
研究者たちも論文にて「恒星との遭遇が太陽系の長期的な変化において、重要な役割を果たしていることを示した」と述べています。
太陽系のような同心円状に並ぶ美しい惑星配列は、他の恒星との深刻なニアミスがあった場合には、失われてしまうことが知られていることから、太陽系はあまり他の恒星と関わらずに過ごしてきたと考えられてきました。
しかし今回の研究では、惑星軌道を完全に変えてしまうような深刻なニアミスではなくとも、ある程度他恒星の接近があると、惑星軌道に長期的な影響を及ぼすことが示されました。
そしてこれは地球の生命にとってはかなり影響の大きい気候変動に繋がる可能性があるのです。
これまで私たちは気候変動と言えば、火山噴火や隕石衝突など地球内に原因を求めがちでした。しかし新たな発見は太陽系の外にも気候変動の原因が存在する可能性が強化されました。
現在は生命に致命的となる小惑星の接近を、宇宙機を使って逸らす実験も進められていますが、地球から遥か離れた位置で恒星が太陽系に接近するというイベントは、人類に打つ手がありません。
このような脅威に対して、人類は腹をくくるしかないかもしれません。