マウスに「Alu要素」を挿入すると尻尾が消えた!
チームはその実証テストとして、63匹のマウスのTBXT遺伝子に「Alu要素」を挿入してみました。
その結果、生まれてきたマウスはほぼすべて、尻尾が完全になくなるか短くなることが分かったのです。
これは「Alu要素」が尻尾の消失の遺伝的原因であることを証明しています。
加えて、尻尾を完全に失ったマウスの中には「二分脊椎」という先天性の形成不全を発症しているものがいました。
二分脊椎とは、胎児期に脊髄神経が入っている背骨のトンネル(脊柱管)が正常に形成されず、一部が完全に閉鎖していない状態を指します。
二分脊椎になると、排便や排泄に関わる機能の障害、足の痛みや感覚障害、それから歩行障害を引き起こす可能性があります。
研究主任の一人であるイタイ・ヤナイ(Itai Yanai)氏は「ヒトの新生児にも1000人に1人の確率で二分脊椎が見られており、これはおそらく尻尾を失ったことによる進化のトレードオフの一つだろう」と述べました。
では、ヒトを含む類人猿が尻尾を失うことには、どんなメリットがあったのでしょうか?
その答えはまだ定かでないものの、研究者たちは「尻尾をなくすことで樹上生活から地上生活に適応できるようになったのではないか」と考えています。
尻尾を形成する尾椎とは、身体を支える脊椎の末端に位置していて、この骨の変化は直立二足歩行を発達させる際に重要な変化だった可能性があります。
人間を含む霊長類のグループにおける尾の喪失は、このグループが旧世界のサルから進化した約2500万年前に起きたと考えられています。
複雑に絡み合う木々の中では、枝をつかんだりぶら下がったりするのに尻尾がとても有効です。
しかし大型猛獣がうろつく地上では尻尾よりもむしろ、遠くを見渡せていち早く天敵を見つけられるような背の高さが役に立ちます。
脊椎の一部の構成が変化したことは、先に述べた通り背骨の形成において問題を起こす場合があり、通常の生物においては尻尾を失うことは不利益に働く可能性があります。
しかし、地上生活を送るようになった類人猿には、その問題を超えた強力な利点があった可能性が高いようです。