恒星間天体の落下場所を示す振動データは、実はトラックが走る時の振動だった
2023年6月、ローブ氏ら研究チームは、パプアニューギニアの海底に沈んだ恒星間天体「IM1」の欠片を探しました。
そして7月には、数百個の金属球体(最大直径1.3mm)を回収し、これらを「IM1の欠片だ」と主張しました。
ちなみに、このプロジェクトでは、「IM1が大気圏に突入した際の空気の振動」から、IM1の欠片の落下場所を推測しようとしました。
IM1が大気圏に突入した後、パプアニューギニアのマヌス島にある地震観測所で地面の振動が記録されたため、この2つを関連付け、落下位置を導き出したのです。
しかし、ローブ氏らの主張に対して、ジョンズ・ホプキンズ大学のベンジャミン・フェルナンド氏は異議を唱えています。
フェルナンド氏によると、「その地面の振動データは、IM1の大気圏突入で発生したものではない」というのです。
そして「IM1は、実際には別のポイントで大気圏に突入していた」「実際に欠片が落ちた場所は、ローブ氏らが探索した場所から非常に遠く離れている」と続けています。
「彼らは間違った信号を使用しただけでなく、間違った場所を探していました」とのこと。
では、どうしてローブ氏らの探索場所が間違っていたと言えるのでしょうか。
フェルナンド氏ら研究チームは、「そもそもマヌス島で、IM1の大気圏突入に関連した信号を確認できなかった」ようです。
それどころか、核実験による音波を検出するよう設計されたオーストラリアとパラオの観測所のデータから、IM1の信号が検出されたようです。
その振動データによると、「正しい欠片の落下場所は、ローブ氏らが探索したポイントから160km以上も遠く離れていた」のです。
では、ローブ氏らが探索に用いた「振動データ」とはいったい何だったのでしょうか。
フェルナンド氏は、「その振動の原因は、火球ではなく、観測所の近くの道路を轟音を立てて通過するトラックだった可能性が高い」と述べています。
そして「その信号(振動データ)は、時間の経過とともに方向を変え、地震計の前を通る道路と正確に一致しました」と続けました。
実際、このような勘違いは時々生じます。
例えば、ある天文台で検知される「奇妙な電波」の正体は、17年間謎に包まれていましたが、「実は近くの電子レンジだった」ということがありました。
また、仮にローブ氏らの探索場所が間違っていないとしても、海底から回収された物体を「太陽系外から来た」と断定することは困難です。
なぜなら、地球には、毎年約3600トンもの「宇宙からの微小な物質・塵」が降り注いでいると考えられているからです。
回収された物体が「宇宙から来たもの」だと分かったとしても、それを10年前に飛来した恒星間天体「IM1」と関連付けるのは、非常に難しいのです。
今回のフェルナンド氏の報告は、地上で「恒星間天体」の物質を見つけることの難しさを示しています。
私たちが「太陽系外からの贈り物」を手にするのは、まだまだ先のことなのかもしれませんね。