脳を溶かす「殺人アメーバ」の恐ろしさとは?
フォーラーネグレリア(学名:Naegleria fowleri)は、約25〜30℃の温かい淡水環境に生息するアメーバです。
ヒトに対して病原性を示すことで知られ、フォーラーネグレリアが存在する水に接触すると、鼻から侵入して脳に到達し、感染に至ります。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、フォーラーネグレリアの感染者は14歳未満の子供たちが特に多いという。
これはおそらく、子供たちが大人よりも川遊びや湖へのジャンプをする機会が多く、鼻に水が入りやすいためと考えられています。
サンアントニオの少年も当時、リオグランデ川で母親と水遊びをしていたことがわかっています。
フォーラーネグレリアに感染すると「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)」を発症します。
これは中枢神経系が冒されることで、嗅覚や味覚に変化が起こり、次第に発熱や頭痛、嘔吐、光過敏症といった一連の症状を引き起こす危険な病気です。
PAMの病状の進行はきわめて早く、感染者のほとんどは症状が出始めてから平均5日後には昏睡状態に陥ります。
その後、フォーラーネグレリアは脳組織の大部分を破壊し、ほぼ100%の確率で感染者を死に追いやるのです。
脳組織の破壊の一部はフォーラーネグレリア自身によって行われるため、”脳食いアメーバ”と表現されますが、大部分は侵入者であるアメーバに対する体の攻撃的な免疫反応によって引き起こされます。
CDCの調べによると、アメリカ国内では1962年〜2022年の間にフォーラーネグレリアの感染例が157件確認されており、そのうち生き残ったのはわずかに4人だけだったという。
世界の他の地域でもこの数字は似たようなもので、フォーラーネグレリアに感染して生存できるケースは非常に稀です。
日本国内では1996年11月に一度、佐賀県在住の25歳女性がフォーラーネグレリアに感染し、死亡した事例が報告されています。
女性は症状の発症から7日目に意識が混濁し、9日目に亡くなりました。
感染経路は不明で、過去1カ月の行動履歴をさかのぼってみても、野外や温水プールでの水浴、温泉入浴、海外渡航歴もなかったという。
また死亡後の病理解剖では、脳は「半球の形状を保てない程軟化していた」といいます。
さて、サンアントニオの少年の診察を担当したデニス・コンラッド(Dennis Conrad)医師は、PAMの感染者を診るのが今回で3件目でした。(前回の2例はいずれも死亡している)
少年はコンラッド医師の元に到着するまでに、すでにPAMの発症から5日目を迎えていました。
最初に話したように、その時点で少年は意識もなく、かなり危ない状態をさまよっていたといいます。
コンラッド医師らは何とかして少年の命を救うため、当時注目され始めていた「ミルテホシン(miltefosine)」という治療薬を使うことにしました。