怪音の正体は「ニタリクジラ」!
NOAAの海洋学研究チームは今回、ビオトワングの正体を明らかにすべく、これまでに録音した膨大な数の音声を調査しました。
NOAAは2005年以来、マリアナ海溝を含む北太平洋エリアで録音調査を続けており、その音声データは全部で20万時間以上に達します。
研究主任のアン・アレン(Ann Allen)氏によると「この音声を一つずつ聴いていたら、すべてを聴き終わるまでに23年近くかかってしまう」という。
そこでチームはGoogleと協力し、AIを使って20万時間以上の音声データを聴かせてトレーニングさせ、機械学習アルゴリズムを用いて不要なノイズを除去。
その状態でビオトワングの音声データと一致するものを探した結果、ニタリクジラ(学名:Balaenoptera brydei)の鳴き声と見事に一致したのです。
ただし、世界中の海に分布するニタリクジラのすべてがビオトワングと同じ奇妙な鳴き声を出すわけではありませんでした。
研究者によると、マリアナ諸島の近くで録音された10頭のニタリクジラのうち、9頭の鳴き声だけがビオトワングの音声データと一致したのだといいます。
ニタリクジラは北緯40度と南緯40度にわたる水温20℃以上の海に広く分布していますが、ビオトワングを発していたのはマリアナ諸島にいた9頭のみでした。
このことから、ビオトワングのような独特な鳴き声はニタリクジラの中でも、マリアナ海溝付近に分布する集団に特有のものであることが推定されました。
アレン氏も「10頭中1〜2頭の鳴き声だけがビオトワングと一致すれば、それは偶然の可能性がありますが、9頭となるとビオトワングはニタリクジラの鳴き声と見てほぼ間違いない」と話しています。
しかし一方で、これまでの研究ではまだマリアナ海溝付近のニタリクジラの集団が固有の音(ビオトワング)を発する理由については明らかにされていません。
アレン氏は「ニタリクジラはお互いの位置を特定するためにビオトワングを使っている可能性がありますが、それを証明するにはさらなる調査が必要です」と話します。
やはりこの事件の裏には、まだ明らかにすべき謎が隠されているようです。
マリアナ海溝に特有の海洋環境がビオトワングのような鳴き声を発達させたのか、それともマリアナ海溝の奥底に眠る”何か”と交信するためにニタリクジラの集団が独特な鳴き声を出しているのか…
広大な海には私たちの知らない秘密がごまんと隠されているのでしょう。