菌類は図形に応じて異なるネットワークを形成する
菌類も図形を認識できるのか?
認識できているとしても、人間はどうやってそれを確かめるのか?
新たな研究ではこの難題を解決する手段として、非常にユニークな方法をとりました。
実験ではまず木材をエサにする菌類(チャカワタケ)とエサとなる9個の木片が用意され、チャカワタケを木片に塗り付けました。
次にチャカワタケ付きの木片を上の図のように円型とX型に配置し、116日間にかけて培養を行いました。
すると先にも図で死したように、菌糸が成長して最終的には異なる形状のネットワーク構造を形成することがわかりました。
円型とX型をベースにしたネットワーク構造には、素人目にも大きな違いが存在しているのがわかります。
そこで研究者たちは、エサとして使用している木片の減少量や、木材と菌糸束の接続数などを調べてみました。
(菌糸束:数十本から数百本の菌糸が束になったもの。単純に束になっているものの他に表皮部分や通路部分に役割がわかれているものもあります。図では一番右の太い線になっている部分です)
同じ菌に対して同じ量のエサを与えた場合、普通なら同じ結果になりそうなものです。
しかし実際は、菌糸束が多く接続しているエサほと分解が進んでいることが判明。
さらに円型の菌たちはX型の菌たちよりもエサを多く分解していることもわかりました。
この結果は、図形の形状の違いが、菌たちのネットワークの活性に違いを生んでいることを示します。
研究者たちは「図形の違いによって脳で活性化する神経ネットワークが違う」現象は「図形の違いによって菌のネットワーク活性が異なる」現象と似ている可能性があると述べています。
またそのように解釈すれば「菌類の菌糸体は図形を識別できると言える」と結論しています。
では、菌類のネットワークがより複雑化してゆけば、AIのように高度な情報処理ができたり、人間のような意識が持てるのでしょうか?
これまでの研究により、菌類の細胞表面に存在するイオンの通り道(イオンチャンネル)が、菌糸内での電気信号の伝達を行っており、菌類が学習するための神経回路のように機能している可能性が報告されています。
そのため菌類のネットワークの複雑さが一定の閾値を超えれば、理論的には、脳のように機能することも可能なハズです。
この点について研究者たちは、実験結果は菌たちが意識を持っていることを示してはいないと述べています。
というのも、認知が行われるプロセスは意識のプロセスとは独立して機能しているからです。
図形の認識のような機能は、意識が働いていようが働いていまいが自動的に行われることが知られています。
ただ菌類の認知機能を理解することができれば、脳を持たない生物たちの原始的な知能を知るにあたり大きな手助けになるでしょう。
研究者たちは菌類の知的行動のメカニズムを解明できれば、菌類を使った生物コンピューターの開発につながる可能性があると述べています。
もしかしたら未来のコンピューターには、シリコンや金属でできた電子部品の他に、ゲルパックに保存されたバイオコンピューターも一緒に搭載されているかもしれません。