拷問は脳ネットワークの接続性を低下させる
研究の結果、拷問体験者では、デフォルトモードネットワーク(DMN)や聴覚と運動のネットワーク(AMN:auditory-motor network)が低下していることが分かりました。
デフォルトモードネットワークは、脳が「何もしないとき」に活性化するネットワークで、自己認識、内省、過去の記憶の再生に関与します。
例えば、日常生活の中でふと自分の行動を振り返るときや将来の出来事を思い描くときに、このネットワークが活発に働きます。
しかし、拷問体験者では、このDMNの接続性が低下していることが確認されました。
これにより、注意の切り替えが困難になったり、感情の整理が難しくなったりすると考えられます。
聴覚と運動のネットワーク(AMN)は、音や運動に関する感覚情報を処理し、脳の他の部分と統合する役割を担います。
拷問体験者では、このAMNの接続性が低下していました。
これにより、環境音や刺激に過敏になり、不快感を覚えることが増えると考えられます。
また感覚情報が適切に処理されないため、感情の整理やトラウマ記憶の管理が難しくなるはずです。
これらの結果は、拷問による極度のストレスが、脳に「神経ネットワークの接続性の低下」という傷跡を残すことを示しています。
彼らはこの影響により、注意力の欠如や感情の麻痺、さらには抑うつ症状を経験するのです。
そして拷問体験者が抱えるPTSDは、こうした脳の障害と密接に関わっている可能性があります。
一方で、この知見は、神経接続性を回復させることを目指した新たな治療法を開くものとなります。
現代でも秘密裏に行われる拷問。
これら過酷な体験が残すのは、脳の「見えない傷」です。
しかし、科学の力でその傷を癒し、回復への道筋を探ることができるかもしれません。