「ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルム」の生体復元画(ⓒ服部雅人)
「ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルム」の生体復元画(ⓒ服部雅人) / Credit: 服部雅人
paleontology

【ふわふわ】爬虫類なのに「毛玉ちゃん」の化石

2025.02.09 14:00:25 Sunday

恐竜はトカゲのようなイメージが強い一方で、羽毛があったという説も一般的になって来ました。

では羽毛があったがあったと考えられる恐竜は、どのようなものがいるのでしょうか?

実は日本で発見された、羽毛があったと考えられている恐竜の化石があります。

それはまるで眠るような姿で発見されていて、もともとは丸くてふわふわな「毛玉ちゃん」だった可能性があるのです。

この兵庫県、丹波篠山で見つかった毛玉ちゃんは、小型の恐竜でした。恐竜なのに毛玉ちゃん。爬虫類なのに、ふわふわ。これはどうしたことでしょう。

毛玉ちゃんはトロオドン科獣脚類という種類の恐竜だということがわかりました。トロオドン科とは、獣脚類恐竜の中で最も鳥に近いグループのひとつです。しかも、毛玉ちゃんはトロオドン科の新属新種でした。

鳥は恐竜から進化したという説は、今では大抵の人が知っています。でも、どこまでが恐竜で、どこからが鳥なのでしょう?

空を飛べるように進化したのが鳥?

でも、鳥の中にはダチョウはペンギンのように空を飛ばない(飛べない)種類もいますよね。

爬虫類は体がウロコで覆われていて、鳥は羽毛で覆われている(脚はウロコです)。現代ではそうです。しかし、鳥の進化の途中にあっては爬虫類も羽毛を持ったものがいました。そういう恐竜は「羽毛恐竜」と呼ばれています。

恐竜なのにふわふわ。怖いのか、可愛いのか、どっちだ?と言いたくなる羽毛恐竜について、この毛玉ちゃんを例にとって見てみましょう。

羽毛恐竜 恐竜から鳥への進化 https://amzn.to/3Q9lyJY
Early Cretaceous troodontine troodontid (Dinosauria: Theropoda) from the Ohyamashimo Formation of Japan reveals the early evolution of Troodontinae https://doi.org/10.1038/s41598-024-66815-2

丹波篠山で発掘されたおふわふわなチビ恐竜

2010年9月のこと、毛玉ちゃんは公園で見つかりました。

兵庫県の丹波篠山市にある兵庫県立丹波並木道中央公園で、地元の地層探索グループ「篠山層群をしらべる会」が調査していた公園内の岩砕から、松原薫さん大江孝治さん化石を含んだ岩の塊を見つけたのです。

当時、この公園には白亜紀前期の川に堆積した「篠山層群大山下層」に由来する岩砕があったのです。これは造園工事の際に集められたものでした。

丹波篠山は兵庫県に位置している
丹波篠山は兵庫県に位置している / Credit: Wikimedia Commons/ナゾロジー編

白亜紀。恐竜の化石が出てきそうでワクワクしますよね。

日本からはトロオドン科の可能性がある化石がいくつか出てはいましたが、確実にそれ!といえる化石はまだ出ていませんでした。

それが見つかったのです。しかも可愛い毛玉ちゃん……凄くないですか?

トロオドン科の恐竜は鳥に近いだけあって、小型で軽い恐竜です。中国で見つかったアンキオルニスという獣脚類はあまりに鳥に似ているので「さすがにこれは鳥だろう?」「いやいや、これはまだ恐竜」と研究者の間でも意見が割れるほどです。

ふわふわな子、種類によっては判定が難しいようです。

丹波篠山で見つかったのは、眠った姿勢のまま化石になっていたため毛玉ちゃん的なルックスでした。そして、松原さんと大江さんによって発見されたので、「ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルム(Hypnovenator matsubaraetoheorum)」と命名されました。

眠る姿で見つかった「毛玉ちゃん」
眠る姿で見つかった「毛玉ちゃん」 / Credit: 服部雅人

ヒプノヴェナトルとは「眠る狩人」という意味です。hypno-”はギリシャ語で「眠る」、venatorはラテン語で「狩人」。venatorはトロオドン科の恐竜に多く用いられる名前です。全部合わせると「松原さんと大江さんの眠る狩人」となります。アマチュア化石愛好家が素晴らしい成果を挙げたのです。

しかもこの毛玉ちゃんは新属新種でした。凄い子が見つかってしまいましたね。

この眠るような姿勢は、中国から報告されている「巣穴に逃げ込む」「火山や風成イベントに対する防御姿勢」といった、原始的なトロオドン科の恐竜と同じです。何か恐れを感じることが起きて、怖くて巣の中で丸まり毛玉になっている間に「恐れていた何か」によって死んでしまったのかもしれません。

何か怖いことがあるとおうちに引きこもり、丸く小さくなってやり過ごそうとするのが可愛いです。

この眠れる毛玉ちゃんヒプノヴェナトルは、約1億1000万年前にアークトメタターサル構造を持ったことで速く走れるようになったことがわかりました。

はい、アークトメタターサル構造。これは何でしょう?

これは中足骨((足の甲の骨)のうち、第3中足骨の近位部(頭に近い方の側)が狭くなり、第2と第4の中足骨の近位端が前面で接しているため、第3中足骨が前から見えない状態の構造です。言葉だと少しわかりにくいので図を見てみてください。

ティラノサウルスとアロサウルスの足の骨の比較
ティラノサウルスとアロサウルスの足の骨の比較 / Credit: Wikimedia Commons/ナゾロジー編

この構造には、体重や衝撃を支えるバネのような役割があると考えられていて、速く走ることに適応しています。アークトメタターサル構造を持っている、よく知られている恐竜にはティラノサウルスがいます(あいつ走るのが速いんですよ…)。

その後、趾骨(しこつ:指を作る小さい骨)も走るのに適した形に進化していったことがわかりました。空は飛べなくても走るのが速い。現代にもそういう鳥がいますよね。

調べた結果。ヒプノヴェナトルはトロオドン科、トロオドン亜科ということがわかりました。これがモンゴル産のゴビヴェナトルと仲間になります。後足の形を変えることで速く走れるようになったのはトロオドン亜科から始まったこともわかりました。

モンゴルと日本。つまりアジアで見つかった恐竜が特殊な前足の機能とより速く走れる機能を持ち始めたことがわかったのが、この毛玉ちゃん発見の大きな成果です。

羽毛恐竜は鳥に近いほど小柄だったり、骨が華奢だったりするため、骨同士がつながった状態で発見された例が少なく、恐竜から鳥への進化過程を証明するのはなかなか困難なことなので、そうした点でもこの毛玉ちゃんは貴重な存在といえます。

ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルムの骨格
ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルムの骨格 / Credit: 久保田克博ら,Scientific Reports(2024)

次ページ空を飛ぶ前から羽毛を持っていた「羽毛恐竜」

<

1

2

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

古生物のニュースpaleontology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!