モルヒネ、そして悪名高き「ヘロイン」の誕生
ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナーは1803年、アヘンに最も多く含まれ、最も作用の強い成分を抽出することに成功しました。
彼はこの成分をギリシャ神話に登場する夢の神モルフェウスにちなんで「モルフィウム」と名付けます。
これがのちに「モルヒネ」と改称される物質です。
モルヒネはアヘンの6倍もの効果があり、強力な痛み止めと短時間での高揚感が得られました。
しかしゼルチュルナーはそれと同時に、アヘン以上に強い気分の落ち込みと依存状態になることを自らの体で確かめます。
中毒成分が取り除かれるどころか、逆に中毒性が高まってしまったのです。
彼は「私はとんでもなく恐ろしい物質を作り出してしまったかもしれない」と警告しましたが、周囲は聞く耳を持ちませんでした。
そして1827年にドイツの製薬会社がモルヒネに目をつけて、大量生産を開始。
モルヒネがあらゆるケガ人や病気の患者に使われ、今度はモルヒネ中毒者が続出しました。
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こうした失敗を目にしたイギリスの薬剤師C・R・オルダー・ライトは「モルヒネを別の物質と混ぜ合わせればいいんじゃない?」と発案します。
つまり、モルヒネを他の成分と化学反応させることで、中毒作用を起こす成分を消してしまおうと考えたのです。
そこで彼はモルヒネを反応型の無水酢酸と混ぜてストーブの上で数時間過熱しました。
このプロセスを「アセチル化」と呼びます。
ライトはアセチル化で得られた粉を飼い犬に与えてみたところ、犬は突如として興奮し喚き立て、最後には死亡寸前にまで陥りました。
「あ、これはダメだ」と判断したライトは、研究成果を論文にまとめて学会に発表するにとどめます。
ところがその後、ドイツの製薬会社で働いていた化学者ハインリッヒ・ドレゼルがライトの論文を目にし、「そうか、モルヒネをアセチル化すれば、強力な鎮痛薬が得られるのか」と気づきました。
こうして1898年にその製法に基づいた新薬が生み出されます。
これがかの悪名高き「ヘロイン」でした。
ヘロインはアヘンより強いモルヒネのさらに5倍もの効き目があり、強力な鎮痛作用がありました。
しかし一方で、アヘンが元々持っていた悪の力も凝縮され、今まで以上の強烈な気分の落ち込みと中毒作用を引き起こしたのです。
しかもヘロインはドイツやアメリカの薬局で普通に手に入るものとなり、新たな麻薬中毒者が路上に溢れかえりました。
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それでも諦めないのが科学者という生き物です。
今度はアヘンの中に含まれるモルヒネとは別の成分に注目し、これを抜き出して新しい薬を作ろうとしました。
この成分はケシが栽培されていた古代エジプトの都市テーベにちなんで名付けられた「テバイン」と呼ばれています。
1916年、ドイツ・フランクフルト大学の2人の化学者が初めてテバインから鎮痛剤を合成し、これを「オキシコドン」と名付けます。
オキシコドンはモルヒネやヘロインとは違って中毒性が低く、安全な薬と考えられました。
しかし科学者たちにはこれまで、アヘンの扱いに幾度も失敗してきた苦い歴史があります。
そこでモルヒネやヘロインのときとは違い、オキシコドンを使うことに非常に慎重になっていました。
「また中毒患者が続出するのではないか」と戦々恐々としていたわけです。
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ところが医学が発展するにつれて、モルヒネやオキシコドンに関しては末期患者の痛みを和らげる「緩和ケア」に役立つことがわかってきました(ヘロインは作用が強すぎる)。
そして1980年代に、モルヒネやオキシコドンを医療用の緩和ケアとして使うことが法的に許可されます。
しかし、いつの時代も麻薬が持つ悪魔の魅力に惹かれてしまう人は絶えません。
不幸にもオキシコドンやヘロインは裏の闇市場でも盛んに取引されるようになり、無数の犠牲者を出してしまいます。
特にアメリカでは今日も尚、ヘロインの乱用者が続出しており、年間に数万人の死者が出ている状況です。
しかも麻薬の魔の手は大人だけではなく、10代の少年少女にも広がっています。
こうして「神の薬」だと信じられたアヘンは今や、多くの人々を破滅させる「悪魔の実」となったのです。
モルヒネは医療にも使われている以上
悪魔の実と一概には言えないのでしょうか?
是々非々で見ないと恣意的も思われても仕方のない記事だと思います
「アヘン買えよ」「いらねぇよ」のいざこざ
や、
「よお、なんかいいもん吸ってるじゃねぇか?」「俺らにも吸わせろよ」「…おい、こりゃ絶品だな」
や、
【それでも諦めないのが科学者という生き物です。】など
読んでいて途中笑ってしまう
言葉の使い方が天才的だと思いました。
3ページまであると余程興味のある事でない場合読んでいる途中でいやになってしまう事が多々あるのですが
表現が面白くて引き込まれます。ゆえに
事の流れを覚えます。
最高ですね 感心しました
私的には文章大絶賛です!