時計が止まったように見える錯覚の不思議
時計が止まったように見える錯覚の不思議 / Credit:Canva
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時計が止まった?時間の錯覚「クロノスタシス」の不思議な仕組み

2025.02.16 18:00:15 Sunday

時計の秒針を見た瞬間、なぜか止まったように見える。

そんな奇妙な体験をしたことはありませんか。

この現象には「クロノスタシス(chronostasis)」という正式な名前があり、脳の情報処理や注意の向け方が深く関わっているとされています。

しかも、この時間が伸びたように感じる現象は、視覚だけでなく聴覚でも起こりうることが近年の研究で示唆されています。

クロノスタシスが起こるメカニズムや、私たちが当たり前と思っている時間知覚がいかに脳によって再構築されているのか、その背景に迫ってみましょう。

Illusory perceptions of space and time preserve cross-saccadic perceptual continuity https://doi.org/10.1038/35104551 Auditory chronostasis: hanging on the telephone https://doi.org/10.1016/s0960-9822(02)01219-8

「時計が止まった!」クロノスタシスのメカニズム

大きく目を逸らしてから秒針を見ると止まったように見える
大きく目を逸らしてから秒針を見ると止まったように見える / Credit:Pixabay

クロノスタシスの代表例として有名なのが、「秒針を見た瞬間に時計が止まったように見える」という現象です。

Kielan Yarrowらは、被験者が視線を別の場所へ移すサッカードと呼ばれる急速な眼球運動と、時間の知覚がどう結びついているのかを調べました。

その結果、サッカードの距離(角度)が大きいほど、「秒針が止まっている」と感じられる時間も長くなる傾向が示されたのです。

なぜ、このような時間の伸びが生じるのでしょうか。

大きな要因として、サッカード中の視覚情報の空白を脳が巧みに補完していることが挙げられます。

人間の視線は高速移動中、外界の映像を鮮明には捉えていません。

もし脳がこのブレた映像をそのまま私たちに届けてしまうと、世界は常に揺れ動いて見えるはずです。

しかし、私たちは日常でそんな感覚をほとんど持ちません。

これは脳が、サッカード前後の映像をつなぎ合わせて、連続したひとつの視界としてまとめ上げているからだと考えられています。

視線をずらした瞬間に見ている対象が実際には動いていないのに、脳は「同じ場所にある同じものを見続けていた」と判断し、その状態をあたかもサッカード前から継続していたかのように処理してしまいます。

これによって生まれるのが、一瞬だけ時間が引き延ばされたかのような錯覚です。

ふとした瞬間に時計を見ると、効果はより大きいかもしれない
ふとした瞬間に時計を見ると、効果はより大きいかもしれない / Credit:Canva

また、この効果は「対象が安定している」と感じられる場合に顕著に表れます。

サッカードの最中に対象が移動してしまうと、連続性が保てずクロノスタシスが起こりにくくなることも報告されています。

実際にどれほど時間が歪んでいるのでしょうか。

視線を22度急速に動かしたとき、被験者は秒針が止まっていたと感じる時間はおよそ数十ミリ秒単位でした。

角度が大きい55度になると、その錯覚がさらに大きくなり、約70ミリ秒前後もの余分な時間を知覚していた可能性が示唆されています。

もちろん個人差はあるものの、こうしたわずかなズレが主観的には「秒針が止まった」というはっきりした印象を与えるには十分なのです。

クロノスタシスは決して珍しい特殊な現象ではなく、むしろ脳が普段から行っている情報の補正が、一瞬だけ垣間見える現象だといえるでしょう。

私たちが当たり前に感じている連続的な視界は、実際には脳の微妙な再構築作業によって成立しており、その副作用として時計の秒針が止まっているように感じられるわけです。

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