マグロの体を大きくするにはとんでもない餌の量が必要だった
マグロの体を大きくするにはとんでもない餌の量が必要だった / Credit:Canva
biology

マグロは恐ろしくエネルギー効率が悪い!1kg増やすのに10kg以上餌が必要

2025.02.22 17:00:12 Saturday

私たち日本人の食事に欠かせないマグロ。

しかし、マグロはその止まれない体の構造上、常に膨大なエネルギーを消費していることをご存じでしょうか。

マグロが高速遊泳と局所的恒温性を保つために大量の餌を必要とする理由や、飼料要求率(FCR)の高さが示す超大食漢ぶりを掘り下げます。

止まることなく泳ぎ続ける驚きの生態を、一緒にのぞいてみましょう。

An updated Review of Tuna Growth performance in Ranching and Farming Operations https://www.ccsbt.org/system/files/CC12_BGD02_AU_Farm%20growth.pdf
Tuna nutrition and feeds: current status and future perspectives http://dx.doi.org/10.1080/10641260902752207

マグロが「止まれない」理由

マグロが海中を絶えず泳ぎ続ける姿には、美しさと迫力があります。

しかし、マグロの止まれない性質は、呼吸機構と体温維持のための特殊な仕組みに深く根ざしています。

まず大きな特徴として、マグロはエラ蓋を使った二重ポンプ換水と呼ばれるポンプ式の呼吸がほとんどできません。

一般的な多くの魚は口から水を吸い込み、エラ蓋を開閉しながらエラを通過させて酸素を取り込みます。

しかし、マグロにはその機能がほぼなく、口を開けて泳ぎながら海水を強制的にエラに流し込むラム換水という方法を使います。

つまり、マグロは泳ぎを止めてしまうと必要な酸素を十分に取り込めなくなるため、常に遊泳状態を維持しなければならないのです。

止まれないマグロは多くのエネルギーを消費する
止まれないマグロは多くのエネルギーを消費する / Credit:写真AC

もう一つの大きな特徴は、高い代謝量を維持するための局所的恒温性です。

魚類の多くは外部環境の水温に体温が依存する変温動物ですが、マグロのなかでもクロマグロ属(太平洋クロマグロや大西洋クロマグロ、ミナミマグロなど)は筋肉内に発達した赤筋と、その周辺にある網状の微細な血管網によって熱を逃がさずに蓄えることができます。

これにより、海水温が低めの地域でも赤筋周辺の体温を外洋水温より高めに保ち、高速の持久泳動作を可能にするのです。

ところが、エネルギーを生み出すには大量の酸素と栄養が必要となるため、結果的に酸素消費量・カロリー消費量ともに非常に高くなります。

大型個体になればなるほど、その量は一層増大するともいわれています。

マグロの赤筋は、持久力に優れた長距離走者の筋肉と例えられます。

赤筋では脂質とタンパク質が大量に消費され、しかも非常に活性の高い代謝反応が起こるため、海中を泳ぎ回る際の燃費が悪くなるわけです。

さらに、遊泳を止めると呼吸さえままならないという制約がある以上、絶えずエネルギーを使い続けることになるのは当然の帰結でしょう。

とくに赤身部分の多いクロマグロの仲間ほど(太平洋クロマグロ、ミナミマグロなど)、脂質の利用効率やタンパク質摂取のバランスに大きく依存し、高い成長や長距離回遊をこなします。

このような高代謝と局所的恒温性がもたらす「常時・高速遊泳生活」は、マグロの活動範囲を広げる一方で、餌に含まれる栄養要件を格段に高めることにもなりました。

マグロの養殖場などでは、低水温下でも飼料の摂取量が減少したり成長が止まったりするという観察結果がある一方、高水温期にはむしろ餌摂取量が10%を超えることもしばしば報告されています。

これほど顕著な季節変動や温度感受性が示されるのは、マグロの生理機能が水温と遊泳速度、さらには体格サイズによって多彩に変化するからにほかなりません。

マグロは「酸素を取り入れるために泳がざるを得ない」「赤筋や血流システムで身体の一部を温め続け、冷たい海域でも活動を維持する」という特性によって、ほかの魚類とは一線を画すほどの高エネルギー消費生活を送っています。

こうした背景を知ると、私たちが普段口にしているマグロの刺身やお寿司も、驚くほどの燃費の悪い魚の結晶だということが感じられるでしょう。

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