バイキングの食事と健康を映す“化石”

では、なぜこの糞がそこまで貴重で面白いのでしょうか?
その答えは、中に残された食べかすや寄生虫の痕跡にあります。
研究者たちが糞石を細かく分析すると、まず見つかったのは穀物や肉のかけらでした。
それから驚いたことに、果物や野菜、ナッツなどの形跡がほぼ確認されなかったのです。
つまり、この糞の主は主にパンや肉が中心の食事をとり、果物や野菜をあまり摂取していなかった可能性が高いと推測されます。
当時としても栄養バランスが偏っていたかもしれません。
さらに、この糞石には寄生虫の卵が大量に混ざっていました。
鞭虫(べんちゅう)や回虫(かいちゅう)と呼ばれる腸内寄生虫の痕跡です。
衛生環境が今ほど整っていない時代には、多くの人がこうした寄生虫に感染していたと考えられますが、これほどはっきりと証拠が残るのは珍しいことです。
バイキングの生活を“力強い戦士”というイメージだけで語りがちですが、実際には寄生虫に悩まされながら暮らしていたかもしれないと分かると、一気にリアルさを感じます。
つまり、この巨大な化石化した糞は、1200年前のバイキングがどんなものを食べ、どんな健康状態にあったのかを直接教えてくれる「タイムカプセル」のような存在なのです。
考古学の世界でも、武器や遺構だけでは分からない人々の暮らしぶりを知るうえで、こうした“日常の痕跡”は何より貴重な研究材料といえます。
今も多くの研究者が、このロイズ銀行糞石を通してバイキングの本当の姿を追いかけ続けているのです。