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Credit:Canva
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睡眠障害は恐怖記憶を忘れやすくする効果もあった

2025.03.07 20:00:23 Friday

アメリカのハーバード大学医学部(HMS, マクリーン病院)で行われたマウス研究によって、「トラウマ体験のあとにあえて睡眠を奪うと、恐怖記憶が大幅に減衰する」という興味深い可能性が示されました。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの治療では、一般に“良質な睡眠”を確保することが重要とされてきましたが、この研究によれば「あるタイミングでの睡眠不足」が、むしろ恐怖や不安の原因となる記憶を弱める方向に働くかもしれないのです。

オス・メスいずれのマウスでも同様の効果が得られたというこの発見は、いったいどのようなメカニズムで私たちの心の傷を癒やす手がかりとなるのでしょうか?

研究内容の詳細は『Neuropsychopharmacology』にて発表されました。

Acute sleep disruption reduces fear memories in male and female mice https://doi.org/10.1038/s41386-024-01978-0

なぜ“寝ない”と恐怖が減る? これまでの研究と新たな仮説

睡眠障害は恐怖記憶を忘れやすくする効果もあった
睡眠障害は恐怖記憶を忘れやすくする効果もあった / “Gentle Stimulation(優しい刺激)”と“Sweeper Bar”という2つの異なる方法で睡眠を奪った際に、マウスの血液中に含まれるストレスホルモン(コルチコステロン)がどの程度変化したかを比べたもの。グラフは、2種類の睡眠剥奪方法でマウスを起こし続けたときに測定した血中コルチコステロン(ストレスホルモン)の量を示しています。 横軸には「コントロール群(睡眠を奪っていない)」「Gentle Stimulation群(やさしい刺激で起こし続けた)」「Sweeper Bar群(ケージを自動的に動く棒でかき回して起こし続けた)」などの区分があり、縦軸はホルモンの濃度(血液1mlあたりのコルチコステロン量など)を表します。 値が高いほどストレスを強く感じている可能性が大きいことを意味します。 グラフからわかるように、Sweeper Barの方がコルチコステロンが高く、“Gentle Stimulation”の方がストレスが少ない手法であることが確認できます。こうした差があるからこそ、実験では余計なストレスを加えずに睡眠だけを奪いたい場合、Gentle Stimulationが適しているのです。/Credit:Allison R. Foilb et al .Neuropsychopharmacology (2024)

人間や動物にとって「恐怖」は危険を避けるために不可欠な感情ですが、このシステムが過剰に働くことでPTSDや不安障害などの深刻な症状へとつながる場合があります。

実際、これらの疾患には悪夢や不眠など、睡眠障害が顕著にみられることが知られています。

睡眠は本来、さまざまな記憶の整理・固定化を助けると考えられており、恐怖の記憶においてもその形成・維持を強化する要因になると考えられてきました。

しかし一方で、トラウマを経験した直後に“あえて睡眠を制限する”ことで、逆に恐怖記憶が抑えられる可能性を示す報告も少なからずあります。

とはいえ、こうした研究では通常、トラウマ直後のごく限られたタイミングで睡眠を奪うアプローチが中心であり、より時間が経過してからの睡眠不足がどのように恐怖に影響するのかは、ほとんどわかっていませんでした。

そもそも恐怖学習などの記憶は、学習直後の数時間だけで完全に固定されるのではなく、何度かにわたる“波状”のプロセスを経て安定化すると考える研究者もいます。

こうした観点からすれば、トラウマを受けてから一定の時間がたった後でも、睡眠のパターンを操作することで脳の記憶固定プロセスに影響を与えられる可能性は十分にあるわけです。

また、トラウマ直後に睡眠を奪う方法は臨床的に実践するには現実的な制約が大きいという難点がありますが、もし時間が経過した後からでも、一定の条件で睡眠を制限すれば恐怖記憶を減衰させられるのだとしたら、PTSDの治療などに新たな可能性をもたらすかもしれません。

将来的には、こうした睡眠操作を活用した新たなケア手法が開発されれば、長期的に苦しむ患者の症状改善にも役立つことが期待されます。

そこで今回研究者たちは、「恐怖条件付けを受けたマウスに翌日以降にあえて6時間の睡眠不足を与え、その後の恐怖反応がどう変化するか」を詳しく検証することにしました。

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