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睡眠障害は恐怖記憶を忘れやすくする効果もあった (3/3)

2025.03.07 20:00:23 Friday

前ページ翌日に睡眠を奪うだけで恐怖記憶が忘れ去られた

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 “あえて寝不足”が恐怖を抑える理由と今後の課題

睡眠障害は恐怖記憶を忘れやすくする効果もあった
睡眠障害は恐怖記憶を忘れやすくする効果もあった / 図の内容: マウスの脳内(扁桃体や前頭前野など)で観察されたBDNF(脳由来神経栄養因子)の発現量を表すグラフ。睡眠を奪われたマウスとコントロール(普通に眠れた)マウスの比較が示される。このグラフは、睡眠を奪ったマウス(睡眠剥奪群)と、普通に眠れたマウス(コントロール群)とで脳内のBDNF(脳由来神経栄養因子)がどの程度増えているかを比較しています。 BDNFは神経細胞の育成やシナプス強化を助ける物質で、恐怖や不安の制御に重要な扁桃体(BLA)や前頭前野などで量が上昇すると、神経回路の再編が起こりやすくなります。 もしグラフの縦軸が「BDNF量(相対値)」、横軸が「脳の領域」や「グループ(コントロール/睡眠剥奪)」を示す場合、睡眠を奪われたマウスほどBDNFが高い値を示すことがわかります。これは単に記憶の固定を阻害するだけでなく、「恐怖を抑える方向に脳の神経回路が変化した」可能性を示唆する大きな手がかりといえます。/Credit:Allison R. Foilb et al .Neuropsychopharmacology (2024)

今回の実験では、「学習直後」に限らず「翌日にあえて睡眠を奪う」という方法でも恐怖反応が顕著に減衰する点が特筆されます。

従来の通説では、トラウマ直後に睡眠を妨げると“記憶の固定(コンソリデーション)”が阻害されて恐怖が弱まると考えられてきました。

しかし、本研究からはそれだけでなく、脳が恐怖を積極的に抑え込む方向へと変化する可能性も示唆されています。

実際、扁桃体でBDNFが増えていた事実は、恐怖の“ブレーキ”を強化する神経回路が再編された証拠ともいえそうです。

さらに、「Gentle Stimulation」というソフトな睡眠剥奪手法が、マウスに余計なストレスを与えないという点は大きな意義があります。

つまり恐怖記憶が減った理由を「単なるストレス増大」だけに帰せず、神経可塑性(脳のネットワーク再編)が大きく変化した結果と捉えやすくなっているのです。

もしこのメカニズムが人間でも類似しているのだとすれば、トラウマを受けた直後ではなくても、適切なタイミングや期間で睡眠を調整することで恐怖をやわらげる治療法につながるかもしれません。

一方で、人間にそのまま応用するには慎重な検証が必要です。

慢性的な睡眠不足は健康に大きなリスクをもたらすため、「どのくらいの時間・頻度・タイミング」で睡眠を削れば効果的か、といった具体的なガイドラインの確立が欠かせません。

それでも、新しい発想として「ある条件下で意図的に睡眠をコントロールする」という選択肢が増えれば、既存の治療法に加えてPTSDや不安障害に苦しむ人へ新たなアプローチを提供できるかもしれません。

今後は長期的な効果や他の治療との併用など、実際の臨床現場を視野に入れた研究がますます期待されます。

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睡眠障害は恐怖記憶を忘れやすくする効果もあった (3/3)のコメント

ゲスト

不眠症の人は無意識にそれをしている可能性もあるわけですね。

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