太陽系の端に未知の螺旋構造

では、研究者たちはどのようにしてこの螺旋構造を探り当てたのでしょうか。
今回の手法は、海王星や天王星、土星などが小天体を“蹴飛ばす”ように散乱させる「重力散乱効果」と、銀河系全体の重力バランスが及ぼすわずかな歪みである「銀河潮汐」、さらに近くを通過する恒星の重力影響をすべて考慮し、太陽系誕生から現在に至るまでの数十億年をかけて軌道分布がどう変化していくかを3次元的に再現するというものです。
スーパーコンピューター級の大規模シミュレーションによって、天体の軌道がどの方向に向き、どれほど傾き、どの角度で太陽に最接近するのかといった要素が綿密に計算されました。
解析してみると、内側オールト雲に属するはずの天体たちが「渦を巻くような配列」を示す状態が現れたのです。
具体的には、ディスクがねじれたような形で2本のアームが広がり、全体として約15,000天文単位にわたる螺旋状のパターンが再現されました。
これはあくまでシミュレーション上の結果であって、実際に観測されたわけではありませんが、シミュレーション条件を変えてもほぼ同じように現れ、決して一過性の偶然ではない可能性が高いそうです。
さらに、いったんこの軌道に入ると数十億年という非常に長い期間にわたって安定して存在し得ることが示され、「実際に太陽系の端がこんな形で“凍りついて”いるかもしれない」と考える余地が生まれました。
革新的なのは、これまで球殻あるいは平らな円盤として漠然ととらえられていたオールト雲が、実は秩序だった三次元形状を持ちうるという点が明確に示されたことです。
弱い力の積み重ねが長期間にわたり蓄積されると、大規模で印象的な“渦模様”を形づくり得るというシナリオは、太陽系進化を見直すうえで大きなインパクトを与えています。