4億年前、地上を覆った“偽巨大キノコ”

今回の研究ではまず、大型のプロトタキシテス化石を強力なフッ化水素酸(HF)などを用いて溶かし込み、石英質を除去して有機物だけを抽出するという方法が取られました。
イメージとしては“酸のお風呂”に化石を漬け、岩石の部分をそぎ落として中身を取り出す感覚です。
この工程は危険も伴いますが、ふだんは石英に埋もれて見えない細胞壁やバイオマーカー(生物特有の化合物)を鮮明に捉える上で重要なステップとなります。
続いて、取り出した有機物を「赤外線を使った分子の指紋検出器」にかけ、どのような化学結合を持っているかを隅々までチェックしました。
もしキノコの仲間なら、細胞壁にキチンやキトサンが含まれるので特定の波長を吸収するピークが現れるはずです。
同じ地層から採取した真菌化石・植物化石と比較しながら、どこが似ていてどこが異なるのかをはっきりと浮き彫りにしました。
さらに、顕微鏡観察ではレーザーを使って内部構造を3次元的にスキャンし、管(チューブ)同士がどう繋がっているかを立体的に再現。
驚くのは、キノコの菌糸のように単純ではなく、太さや形が異なる複数のチューブが複雑に絡み合うネットワークをなしていたことです。
これらの手法を総合的に駆使した結果、プロトタキシテスには次のような特徴が見出されました。
真菌特有のキチン痕跡が見当たらない
他のキノコ化石で確認できる分子指紋が、プロトタキシテスにはまったく存在しない。リグニンに似た化合物があるが、現生植物とは一致しない
“リグニンっぽい”成分はあるものの、明らかに独自タイプであり、植物とも決定的に異なる。真菌系統を示すバイオマーカー(ペリレンなど)も検出されない
菌類が持つ化合物が見つからず、真菌説はさらに否定的になった。
多くの化石研究は、「形(形態学的特徴)」をもとに「これは植物っぽい」「キノコっぽい」と判断しがちです。
しかし今回の研究では、危険な酸処理を含む抽出、赤外線による分子指紋解析、3D顕微鏡による詳細な内部構造の可視化といった複数の手法を組み合わせ、しかも同じ地層から得られた菌類や植物などと比較するという総合的なアプローチを行いました。
そうした最先端の技術をフル活用した結果、プロトタキシテスが既存の植物や菌類、ましてや動物のいずれにも属さない可能性が非常に高まったのです。
言い換えれば、4億年前の地上には、私たちがまだ想像すらしていない“未知の多細胞生物の系統”がいたかもしれない──その驚きを形にしたのが今回の研究だといえるでしょう。
この生物が活躍していたとされる約4億年前は、まだ森林が十分に発達しておらず、陸上生態系としては過渡期でした。
それゆえ、もしプロトタキシテスが数メートルから最大8メートルもの高さに達していたなら、当時の地表環境に相当なインパクトを与えていたはずです。
ところが、今回の分析では腐生(サプロトロフィー)的機能を示す化学指紋は見当たらず、キノコのように地表の落ち葉や倒木を分解する役割でもなかった可能性があります。
その生態やライフスタイルは、私たちの想像を超えた未知の領域にあるかもしれません。
今後は、世界の他地域からもプロトタキシテスに似た化石が見つかるのか、あるいは全く別の絶滅系統が潜んでいるのか──そうした探索が進むにつれ、4億年前の地球が、想像をはるかに超える“別世界”を抱えていたことが、さらに明確になるかもしれません。
そのキノコ今の時代も有ったら人は食べていたのかな
歯応えなさそう
>リグニンに似た化合物
があるのならば、その化合物によって細胞同士が接着されて固められていたと考えられますから、むしろ歯応えどころか固過ぎて食べられないという可能性もあるかも。
リグニン云々と書いたけど、後から良く考えたら
>高さが最大8メートルに達した可能性がある
という樹木並みに高くなるのなら、重力によって倒れ込む事無く高さを維持するためには、その幹(?)はそれなりに高い剛性を備えている必要があるから、木材並みに固い事は確実でした。
腐生性もなくキチン質もなかったと書かれているのだからキノコとは根本的に異なるだろう
リグニンっぽい多糖類を持っていたなら、やはり光合成は行っていてヒカゲノカズラ類とコケ類が分岐するあたりで独自に進化した分類群がいたのだろう
他の多くの化石も詳細に分析すれば近縁種がたくさん見るかる可能性があるし現在も生き残っている可能性すらある
あ、リグニンは多糖類ではないのか
リグニンあるいはリグニンっぽいポリマーの形成に光合成は不要?
しかし独立栄養生物っぽい気配が濃厚に感じるのだが
蘭の仲間は菌類から栄養を貰って生きる腐生植物(菌従属栄養植物)であるため光合成に必要な葉緑体を持っていませんが、少なくともラン科の植物の一種で1メートル程の高さまで成長するツチアケビはリグニンを持っていますから、リグニンの合成にとって光合成は必ずしも必要ではない事が分かります。(確認出来てはいませんが、他の種類の菌従属栄養植物や、同じく光合成をしない一部の寄生植物もおそらくはリグニンを持っているのではないかと思います)
よくわかんないけどなんかすごい
>リグニンに似た化合物があるが、現生植物とは一致しない
>“リグニンっぽい”成分はあるものの、明らかに独自タイプであり、植物とも決定的に異なる。
リグニンは細胞同士の結合を強化する役割を持つ物質で、植物が(重力の影響を受ける)陸上に進出するにあたって、体の力学的強度を高める必要性があった事から合成するようになった物質であり、浮力によって支えられる水中に棲息する海藻等はリグニンを持っていません。
だからといって「現生植物のようなリグニンが無いので海藻は植物ではない」とは言えないでしょう。
つまりリグニンが無いからと言って、それは「植物ではない証拠」ではないわけです。
例えば植物が陸上に進出するにあたって、細胞同士の結合を強化する物質として、各々異なる物質を用いるようになった異なる系統のグループが複数存在していて、リグニンを用いるグループはそれらの系統の中の一つに過ぎず、その一つの系統に過ぎなかったリグニンを用いるグループが偶々生存競争の結果生き残って現生植物の祖先となっただけで、かつてはリグニン以外の物質を用いていた植物のグループも存在していたという事も考えられないでしょうか?
またそれとは別の話になりますが
>プロトタキシテスが生きていた約4億年前のデボン紀初期は、地球上にまだ大きな森林が出現していませんでした。
>草木の少ない地表で何を分解して栄養を得ていたのか
という問題がある以上、プロトタキシテスは独立栄養生物である可能性が高く、「火山の近く等の限定した場所にのみ生息していた」という事でもなければ化学合成独立栄養生物だとは考え難いので、光合成を行っていたと考えるのが順当ですので
>過去には、同位体比の分析から「光合成とは違うパターンを示す
という報告に関しては再検討する必要があると思います。
とは言え、別サイトに掲載されている別の記事によると、プロトタキシテスにはセルロースが存在していた痕跡が見つからなかったとする話もあり、(単に検出手段上の問題で見つけられなかったというだけではなく)もし本当にセルロースが無かったのであれば、明らかにプロトタキシテスは植物ではない事になります。
フッ化水素酸はキチンやセルロースを溶解するそうですね。
この研究、おかしくないかい?