羽を広げる「量子蝶」を捉えることに成功!
羽を広げる「量子蝶」を捉えることに成功! / Credit:Canva
quantum

羽を広げる「量子蝶」を捉えることに成功! (2/3)

2025.03.31 18:00:25 Monday

前ページ数千テスラの壁を越えて──“宇宙級磁場”の常識を覆す挑戦

<

1

2

3

>

幻の量子蝶が今ここに──理論だけだった存在の“捕獲”

幻の量子蝶が今ここに──理論だけだった存在の“捕獲”
幻の量子蝶が今ここに──理論だけだった存在の“捕獲” / MITおよびプリンストン大学の科学者チームは、最先端の実験技術を駆使して、新しい種類の量子物質中の電子エネルギーを精密に測定しました。 その結果、電子が磁場と周期的な格子構造の両方の影響を受けると、エネルギー状態が雪の結晶やシダ、海岸線に見られるような自己反復パターン(フラクタルパターン)を描くことが明らかになりました。 このフラクタルパターンは、「ホフスタッターの蝶」として知られ、蝶の羽のように複雑で美しい模様がエネルギースペクトル上に現れるため、この名前が付けられました。 フラクタルとは、どこまで拡大しても同じような模様が繰り返される性質を持つ形であり、自然界の様々な現象に見られる共通の特徴です。 量子の世界では、電子が周期的な構造と磁場の二重の影響下に置かれると、そのエネルギーが複数の階層に分かれて、細かいスケールから大きなスケールまで同じパターンが繰り返されるのです。 従来、ホフスタッターの蝶は理論上で予測されるのみで、実際の物質中で直接観察されることはなかったため、多くの研究者がその実現を夢見ていました。 今回の新たな実験では、特殊な「ねじれた二層グラフェン」を用いることで、わずか数テスラ程度の磁場でもこの複雑なフラクタル構造を実際に捉えることに成功し、初めてその存在が確認されました。 この発見は、量子物質の新たな側面を直感的に示すとともに、今後の物性物理の進展や革新的な電子デバイスの開発に大きな影響を与える可能性があります。/Credit:Quantum fractal patterns visualized

研究者たちはまず、二枚のグラフェン(炭素原子がハチの巣のように並んだ極薄いシート)を、わずか約0.6度の小さな角度で重ねるという特殊な方法を試しました。

グラフェンというのは、炭素原子がハチの巣のように並んだ「とても薄いシート」です。

このシートを二枚用意して、2枚目をほんの少し(約0.6度ほど)ねじって重ねると、波紋が重なるように「モアレ模様」という大きな周期のパターンが生まれます。

それは、プールに石を2つ落としたとき、波が干渉し合ってできる複雑な模様をイメージすると分かりやすいかもしれません。

ただし、実際にはこの模様はナノメートル(1ミリの100万分の1)以下という極小の世界で起きているので、普通の顕微鏡ではとても見えません。

ここで登場するのが、極低温(とても冷たい環境)でも作動できる「STM(走査型トンネル顕微鏡)」と「STS(分光手法)」です。

STMは、針の先をサンプルのごく近く(原子数個分ほどの隙間)まで近づけ、ごくわずかな電圧をかけると流れる“トンネル電流”を測定する装置です。

その電流の変化を地図のように可視化することで、サンプル中の電子たちの「エネルギーの分布」がわかるというわけです。

さらにサンプルの下に“ゲート電極”という仕組みを入れ、電圧をかけることで“電子の数”を増やしたり減らしたりできます。

お菓子の入ったビンに例えるなら、「ビンの中にどれだけお菓子(電子)が入っているか」を自由に変えながら、ビンの中の様子を手に取るように調べられるイメージです。

さて、こうして電子の数や磁場の強さなど、いろいろな条件を組み合わせると、ある時、エネルギーバンド(電子のとるエネルギーの範囲)が波紋のように「バリバリッ」と分裂していく様子が見えてきました。

これが、かつて理論でしか語られなかった「ホフスタッターの蝶」のフラクタル模様です。

フラクタルというのは、拡大しても同じような模様が何度も出てくる特徴をもつパターンのことで、雪の結晶やシダの葉っぱなどが身近な例。

この量子の世界で、それがまるで蝶の羽の模様のような形をして現れるため、「ホフスタッターの蝶」と呼ばれています。

しかも、調べてみると、磁場が弱い時には電子同士の結びつきが強くて“ギャップ”と呼ばれる隙間ができるのに、磁場を強くすると不思議とその相互作用が弱まり、バンドが広がってしまう、という意外な動きも見つかりました。

これは、単純な理論では説明できないほど複雑な要素(スピンやバレーなど量子の性質)が、蝶の羽ばたきに影響を与えているからだと考えられています。

なぜ今回の成果がすごいのか?

第一に、長年「数千テスラ級の超強力な磁場がなければ観察できない」と思われていたホフスタッターの蝶を、モアレ超格子によってわずか数テスラ程度でも観察できると証明した点です。

第二に、これまで理論や間接的な測定から推測するしかなかった量子現象を、STMの“分光画像”というはっきりした形でとらえられた点にあります。要するに、電子たちがどんなバンド構造を作り、どんなふうに分裂や再配置を起こしているかを“直接見る”ことができたわけです。

これによって、ねじれた二層グラフェンのような“モアレ材料”には、私たちがまだよく知らない「トポロジカル相」や「超伝導相」といった新しい物性が隠れている可能性がさらに高まったといえます。

わずか0.6度のねじれが生み出す量子の舞台で、電子たちが踊る姿を最前列から観察する――それが今回の研究の意義です。かつては理論上だけの“幻”とされてきた量子のフラクタル模様が、ついに“リアルな”実験データとして私たちの前に現れた瞬間でもあります。

次ページ変幻自在な量子蝶、意外な相関で舞い続ける

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

量子論のニュースquantum news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!