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「カモになってない?」投資ブームのときこそ知っておくべきバブルの仕組み (4/6)

2025.04.19 12:00:29 Saturday

前ページ典型的なバブル崩壊「リーマン・ショック」を理解する

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MBSの裏で動いていた、もう一つの“時限爆弾”──CDSとAIG

リーマン・ショックのニュースを見ていて、こんな違和感を覚えた人もいたかもしれません。

当時、破綻の危機にあったのは、リーマン・ブラザーズをはじめとする投資銀行ばかりでした。これはまあ納得できる話です。金融商品を作って売り、リスクを取っていたのは、主にウォール街の投資銀行だったからです。

ところが、そのなかに「AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)」という保険会社の名前が混ざっていたのを覚えているでしょうか?

しかも報道では、「債券に対する保険の支払い」が原因で破綻寸前になったとされています。

――債券に保険?
――株や為替には保険がかけられないのに?
――なぜ保険会社が、金融危機のど真ん中にいたのか?

こうした疑問を抱いた方は、まさに“本質”に気づいていたと言えるでしょう。

実はこのAIGの破綻危機こそ、リーマン・ショックが金融業者だけの問題ではなく、「金融システムそのものの歪み」だったことを示す決定的な出来事なのです。

リーマン・ショックは表向きMBS(住宅ローン担保証券)が原因とされていますが、その裏側では、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という“もうひとつの金融爆弾”が静かにカウントダウンを始めていました。

これは簡単に言えば、「債券が返済されなかった場合に備える保険」のような仕組みです。

たとえば、ある投資家がMBSを買ったとしましょう。その中にはサブプライムローンが多く含まれていて、「本当に返済されるのか不安だな」と感じたとします。

そこで登場するのがCDSです。「万が一、この債券が返済されなかったとき、代わりに損失を補填してあげます」という保険契約を結ぶことができるのです。

この保険契約は、普通の損害保険とは少し違って、“その債券を持っていなくても”CDS契約を結べるという性質を持っていました。

つまり、極端に言えば「他人が持っているMBSに対して、『もしそれが破綻したら自分にお金を払ってね』という保険を、自分で契約することができる」のです。

これをもう少しわかりやすく言うと他人の家に火災保険をかけて、その家が火事になるのを待っているような行為です。

みんなが他人の家の火事を待っているような異常な状況
みんなが他人の家の火事を待っているような異常な状況 / Credit:OpenAI

まるで“賭け”のようなこの仕組みに、ウォール街のヘッジファンドや投資家たちは熱狂しました。彼らにとってCDSはごく少ない保険料で莫大な補償額を設定できたため、ほんのわずかな支出で何十倍もの「保険金」が手に入る“夢の金融商品”だったのです。

そして、このCDSの発行を大量に引き受けていたのが、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)という保険の巨大企業でした。

AIGは本来、生命保険や自動車保険などを扱う、堅実な老舗保険会社として知られていました。しかし2000年代中頃から、同社の金融部門(AIGFP)がウォール街の投資銀行と結びつき、MBSやCDOに対するCDSの契約を爆発的に増やしていったのです。

このCDSという商品のすごさは、投資家にとっては「不安な債券に保険をかけて安心できる」仕組みであると同時に、保険を売る側にとっても“美味しい商売”だったという点にあります。

保険料は比較的高めに設定しても気にされない上、自分のものでないMBSにも保険を掛けられるため契約者の数は青天井。そして何より、当時は「住宅価格は下がらない」という楽観論が支配していたため、CDSが実際に発動するリスクは限りなく低いと思われていたのです。

AIGの保険セールスマンは、契約リスクではなく契約数が評価軸でした。契約数を積み上げることで巨額のインセンティ(ボーナス)がもらえたため、リスク管理そっちのけで、「売らなければ損」とばかりに営業に拍車がかかっていたと言われています。

しかし現実は、そんな都合のいいシナリオをあざ笑うかのように、静かに崩れ始めていきます。

住宅価格が下落を始めると、CDS契約者からの「保険金支払い請求」が一斉に殺到します。MBSが焦げつけば、その分CDSの補償義務が発生します。AIGの内部では、もはや誰がいくら契約しているかを把握することすら困難になっていたと言われています。

事実上、AIGは「1つの家に何百件もの火災保険」を同時に引き受けていた状態で、しかも「どれだけの火事が起きているのか」も把握しきれていなかったのです。

AIGの資金繰りは一気に詰まり、リーマン破綻からわずか数日後の2008年9月16日、AIGもまた破綻寸前に追い込まれます

しかし今度は違いました。アメリカ政府は即座にAIGに1820億ドル(約20兆円)の公的資金を注入し、事実上の国有化に踏み切ったのです。

なぜリーマンは破綻させて、AIGは救ったのか?

その理由はAIGが保険会社だったからという理由が大きいでしょう。

AIGは単なる金融プレイヤーではなく、医療保険、生命保険、自動車保険、企業向けリスクヘッジ保険など、生活インフラに直結する事業を幅広く展開していました。

「もしAIGが倒産すれば、MBSとは無関係の普通の家庭や企業にまで、この混乱の影響が直ちに広まってしまう」そうした判断から米政府はAIGを救済することに決定したのです。

ただ、そのような理屈ならば、「他人のMBSにCDSを賭けていた人(≒投機的な買い手)まで救済されるべきなのか?」という疑問が浮かびます。

ただこれについては、結論からいうと他人のMBSにCDSを賭けていた場合の保険金(CDS支払い)もきちんと支払われました。

これは、リーマン・ショック後にアメリカ国内で最も強く批判された点の一つです。

そして、さらに問題視されたのはこのCDSの支払い先のひとつにゴールドマン・サックスがあったことです。

ゴールドマンは、当時のアメリカ財務長官ヘンリー・ポールソンの出身企業でもありました(ポールソンは元ゴールドマン・サックスCEO)。

そしてポールソン長官のもと、救済されたAIGはゴールドマン・サックスに対しては1ドルも値引きすることなくCDSの“全額支払い”を行ったのです。

しかもゴールドマン・サックスは、2006年ごろから、サブプライム市場の危険性を認識し始め、「MBS市場の崩壊」に賭けるCDSの買いポジションを拡大していたことが複数の証言や調査報告から明らかになっています。

つまり“崩壊に賭ける”という投機的な行動を取りながら、そのヤバい商品を他人に売り続けるという行為を続けていたのです。

このような事実が明らかになってきたことで、「財務長官が古巣のゴールドマン・サックスを特別扱いしたのでは?」という批判が巻き起こり、ウォール街とワシントンの癒着構造が一気に問題視されるようになりました。

この一連の流れは、単に経済の仕組みや金融商品の技術的な失敗ではありません。

そこにあったのは、「自分だけ儲かればいい」「売れれば勝ち」という、モラルなき営業や投資行動の連鎖です。

数字だけを追い、損失を他人に押し付け、危うい商品を平気で売る。市場に蔓延していた、関係者たちのモラルの低さを露呈する事件だったのです。

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