カフェイン代謝物で記憶力が39%向上

今回の研究では、8週齢の若年ラットと、16ヶ月齢の老齢ラットという2つの年齢層に分けられた個体が用意されました。
それぞれのラットをさらに2つのグループに分け、一方には毎日1-MXという物質を12日間かけて口から与え、もう一方には同じ量の溶液(1-MXを含まない)を与えることで比較しました。
1-MXが脳の働きにどんな影響を及ぼすのか、そして年齢によってその効果は変わるのか――まさに真相を突き止める狙いがあります。
そしてテスト当日、ラットたちは順番にプール(モリス水迷路)へ投入されます。
水温は25度ほどで、ラットにはあまり快適とは言えない環境ですから、いち早くプラットフォームを見つけたいという動機づけが自然に生まれます。
結果は驚くべきものでした。
1-MXを与えられた若いラットは、与えられていない若いラットより約39%も短い時間で足場に到達できたのです。
しかも老齢ラットですら、1-MXグループは到達時間が27%も短縮されました。
年齢差はあるにしても、どちらのグループでも記憶・学習能力が大きく向上したわけです。
さらに、実験終了後に解剖したラットの脳を調べると、神経伝達物質であるアセチルコリンやドーパミン、GABAなどが明らかに増加していることがわかりました。
これらは「情報をスムーズに受け渡しするメッセンジャー」のような役割を担うため、1-MXが脳のネットワークを強化している可能性があります。
加えて、脳を錆びさせる原因の一つとされる酸化ストレスを防ぐ抗酸化物質(グルタチオンやカタラーゼ)が増え、認知症の要因としても取りざたされるアミロイドβ(1–40)が減少するという報告も見逃せません。
単なる「記憶力アップ」にとどまらず、脳全体の健康を保つ多面的な力がありそうだと考えられます。
実験では、1-MXは1日あたり人間換算で100mg相当の用量で12日間投与され、ラットの体重や脳重、行動パターンにおいて負の変化は見受けられませんでした。
また、1-MXはカフェインの主な代謝産物であるパラキサンチンからさらに変換される物質ですが、パラキサンチンや1-MXは主に速やかに体内から排出されるため、慢性的な蓄積による副作用が生じにくいと考えられています。
一方、カフェイン自体は長期あるいは過剰摂取によって、心拍数の増加、興奮、不眠、場合によっては不安感や消化器系のトラブルなどの副作用が現れることが知られています。
これらの事実から1-MXのサプリなどが発売されればカフェインを飲むよりも安全で、カフェインの座を奪うような存在になると期待されると言えます。
ただし、これらの知見は主にラットモデルで得られたものであり、人間における1-MXの安全性や副作用プロファイルについては、今後さらなる臨床試験や長期的な研究が必要となるでしょう。
研究者たちにとっても、予想以上に多面的な効果が示された点は、大きな驚きだったかもしれません。
1-MXを投与されたラットは、学習・記憶力の向上だけでなく、神経伝達物質や抗酸化機能まで強化されていたのです。
若いラットはもともと高い学習力をさらに伸ばし、老齢ラットは衰えかけた脳機能を引き上げられたというわけで、非常にインパクトのある結果と言えそうです。