地球のような環境では「生命が急速に出現する」という証拠が出そろった
地球のような環境では「生命が急速に出現する」という証拠が出そろった / Credit:clip studio . 川勝康弘
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地球のような環境では「生命が急速に出現する」という証拠が出そろった (2/3)

2025.04.28 21:00:31 Monday

前ページたった数億年で命が芽吹く星

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地球は「超高速モード」で生命を芽吹かせていた

地球は「超高速モード」で生命を芽吹かせていた
地球は「超高速モード」で生命を芽吹かせていた / Credit:Canva

キッピング氏は、地球がどれくらいの期間“生命が生存できる星”でいられるか(生物圏の寿命)と、実際に生命がいつ誕生したのかをあわせて考え、ベイズ統計という手法で分析しました。

これは簡単に言うと、「地球のような惑星では生命があっという間に誕生する」というシナリオと、「ゆっくり時間をかけて誕生する」というシナリオを比べて、観測されている事実(たとえば最古の生命痕跡の年代)から、どちらのシナリオがどの程度あり得るかを示す“オッズ比”を計算するやり方です。

地球の場合、約37億年前のストロマトライトや約41億年前の炭素同位体など、生命が存在した証拠の最古の年代を入力データとして使うことで、「生命は実は素早く出現するのではないか、それとも案外じっくり生まれたのか」という2つの可能性を定量的に比較したのです。

その結果、約37億年前(地球誕生から約8億年後)という最古の微化石の証拠を用いた場合、「生命は早く誕生した」という仮説が「遅かった」よりも約3倍有力となりました。

また約41億年前の炭素同位体痕跡を用いると、その比は約9倍に上昇しました。

これらはいずれも「早期アビオジェネシス(迅速な生命発生)」を支持する傾向を示していますが、統計学的に「強い証拠」と見なされる目安(およそ10対1つまり10倍)には達していません。

ところが、最新の研究で提案された約42億年前というLUCAの年代を反映させると、オッズ比は初めて統計的な「強い証拠」の基準である10対1を超え、およそ13対1という値になりました。

実際、仮に地球の生物圏が想定より短命であった場合や、逆に太古の地質時代に文明が出現していたといった極端なシナリオを考慮に入れても、オッズ比は常に10を上回ることが示されています。

これらの結果は、「単に私たちが観測者として存在しているから早いように見える」というだけでなく、地球のような環境では本当に生命が短期間のうちに自然発生しやすいという可能性を強く示しています。

キッピング氏は「今回初めて、地球のような条件下では生命が速やかに誕生するという仮説を裏付ける強力な証拠が得られました」と述べています。

ヘイズ分析について

ヘイズ分析とは簡単に言えば、あり得そうなシナリオを特定する手段となります。

たとえば家族がそろって夕食をとる午後7時が締め切りだとして、最初は「今日のご飯は早炊き炊飯器か土鍋か、五分五分だろう」と何となく思っていたとしましょう。今日の料理当番が弟だったのなら、ルールに間に合うようにするという期待もあります。そこであなたが台所に入るのは6時40分。まだふたを開けず、湯気の有無だけを確かめると、盛んに蒸気が漏れているのが見えました。弟が完全に当番をすっぽかしたわけでないことが確定します。また蒸気の噴出加減から「30分で炊ける炊飯器なら順調、90分かかる土鍋ならかなり厳しい」と感じ、弟が使用したのが炊飯器である見込みがぐっと高まります。

(※普通なら外観的に炊飯器と土鍋はみればわかりますが、ここでは見た目だけではどちらかわからない状態とします)

さらに6時50分、ふたを少し開けると水分がほとんど飛び、米が立っている様子が分かりました。「あと10分で完成」という炊飯器のタイムラインとぴったり重なり、土鍋の可能性はもはやわずかです。そして締め切りの7時、ふたを開けるとご飯は完璧に炊き上がっていました。ここで「炊飯器が使われた」と考えるほうが、土鍋より何倍ももっともらしいという判断が決定的になります。地球生命の研究もまったく同じ構図です。地球というキッチンには「生物が暮らせる寿命」という締め切りがあり、最古の化石(37億年前)、炭素同位体の手がかり(41億年前)、そしてLUCAが42億年前に生きていたという新証拠という具合に、時間の手がかりが段階的に増えるたび、「生命は数億年で誕生した」という早炊きシナリオの信頼度が跳ね上がっていきました。

地球に生命が住めなくなるまで数十億年程度という時期になって人類が誕生したのもポイントです。

締め切りまでに人類という“最後のおかず”をそろえるには、悠長な土鍋コースでは到底間に合わない──だからこそ、ベイズ分析は「速い生命誕生こそ自然な説明だ」と結論づけているのです。

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