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ストーカー遺伝子は存在するのか? (2/4)

2025.05.06 18:00:38 Tuesday

前ページ1:ストーカーと遺伝子

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2:愛のホルモンはストーカー遺伝子になりえる

2:愛のホルモンはストーカー遺伝子になりえる
2:愛のホルモンはストーカー遺伝子になりえる / Credit:Canva

「愛のホルモン」とも呼ばれるオキシトシンは、人の信頼感や共感力を高め、人間関係の絆を強める作用で知られています。

実際、恋に落ちたばかりのカップルでは血中オキシトシン濃度がぐんと上昇することが観察されています。

恋人同士が見つめ合ったりハグをすると幸福感に満たされるのも、このホルモンのおかげかもしれません。

しかし、オキシトシンには意外な“裏の顔”もあります。

最近の研究によれば、オキシトシンは状況次第で人に優しい行動を促すだけでなく、逆に攻撃的な振る舞いを引き起こす場合もあるのです。

愛情ホルモンで人が穏やかになるどころか、時に嫉妬や執着心が増幅されてしまうと聞けば驚きかもしれません。

しかし特定の相手に愛という特別な感情を維持し続けるには「執着心」が必要であり、愛と執着はコインの裏表のような存在でもあるのです。

台湾の精神科医、Chuang Jie-Yu氏らの2020年の研究は、まさにこの「愛のホルモン」の光と影に切り込みました。

彼らによると、恋愛関係がこじれたときに現れやすい危険な行動パターンとして、

浮気癖型(playing)

失恋落ち込み型(suffering型)

執着追跡型(stalking型)

の3つに分類することを提唱しています。

Chuang氏は、これら3つの背景にあるのがオキシトシンの働きの「偏り」だと考えました。

通常、恋愛中はオキシトシンが適度に分泌され、相手への愛情と安心感を育みます。

ところが浮気性型では、このオキシトシン分泌の高まりが鈍く抑えられている可能性があります。

絆のホルモンが十分に出ないため、パートナーへの愛着が浅く、「心が満たされない」状態で次の刺激を求めて浮気を繰り返してしまうのかもしれません。

一方、失恋落ち込み型や執着追跡型では、オキシトシンの分泌が過剰に高まりすぎていると考えられています。

特に、拒絶や失恋といった相手からの冷たい態度に直面してもオキシトシンが高止まりし、相手への思いが収まらずに頭がいっぱいになってしまうのです。

その結果、心の痛みが自分自身への攻撃(内向きの怒り)となって鬱状態に陥るのが失恋落ち込み型、怒りの矛先が相手へ(外向きの攻撃)向かうのが執着追跡型、と位置づけられます。

同じオキシトシン過剰でも、ベクトルの違いで内なる狂気にも外への暴走にもなり得るわけです。

また別の研究ではオキシトシンを細胞に伝えるオキシトシンの受け手(オキシトシン受容体)の性能によって、SNSでのフォロワー数がどのように変化するかを調べる研究が行われました。

結果、オキシトシン受容体が高性能な遺伝子の人に比べて低性能な遺伝子の人は、より多くのフォロワーを持っていることが示されました。

(※便宜的にGG型を高性能、Aアレルを低性能としました。この研究は小規模なものですが、同研究チームによる類似研究が進行しています)

つまりオキシトシン受容体の性能が「どれだけ多くの人をSNSで追いかけるか」に関連していたのです。

この発見は、デジタル社会における人間関係の新たな側面を浮き彫りにしています。

SNSで何十人もの他者の投稿をチェックせずにいられない性質は、もしかすると遺伝子に刻まれた愛着気質の現れなのかもしれません。

SNS時代の「追跡行動」とも言えるこうした行動は、従来型のストーキング(現実世界での付きまとい行為)の前段階に当たる可能性すら考えられます。

デジタル上で気軽に行われる「フォローする」という行為の背後に、私たちの知らないストーカー資質が関連しているとしたら……SNSとの付き合い方も変わってくるかもしれません。

しかしストーカー事件に関連するのはオキシトシンだけではありません。

重大なストーカー事件では愛とは真逆の殺傷事件も起きています。

次ページ3:「戦士の遺伝子」がストーカー事件を重大化させ得る

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