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ストーカー遺伝子は存在するのか? (3/4)

2025.05.06 18:00:38 Tuesday

前ページ2:愛のホルモンはストーカー遺伝子になりえる

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3:「戦士の遺伝子」がストーカー事件を重大化させ得る

3:「戦士の遺伝子」がストーカー事件を重大化させ得る
3:「戦士の遺伝子」がストーカー事件を重大化させ得る / Credit:Canva

たとえば、好きな人に振られて物に八つ当たりしてしまった——そんな経験はないでしょうか。

実は、人が「キレやすい」かどうかにはある遺伝子が関係している可能性があります。

この遺伝子は「戦士の遺伝子」とも呼ばれ、持っている人は挑発されると攻撃的な行動が強まりやすいことが研究で示されています。

「戦士の遺伝子」の正体は、脳内で神経伝達物質を分解する酵素MAOAを作るMAOA遺伝子(特にその低活性型)です。

人によってこの酵素をたくさん作る型とあまり作らない型があり、後者(MAOA-L)では酵素が不足するため神経伝達物質が処理しきれず、興奮が鎮まりにくい状態になると考えられています。

最近の研究で、より一般的な低活性型(MAOA-L)の変異も人の怒りっぽさに影響しうることが分かってきました。

ある実験で、被験者が自分のお金を奪った相手に罰を与えられる場面を設定しました。

その結果、大半を奪われる強い挑発ではMAOA-L保持者のほうが激しく報復しましたが、わずかな挑発では遺伝子による差が見られませんでした。

つまり、この遺伝子の影響は普段は控えめでも、理不尽な目に遭うと怒りの導火線に火がつきやすいということです。

しかし、MAOA-Lを持つ人が常に怒りっぽいとは限りません。

むしろ最近の研究では、彼らは人一倍傷つきやすく、侮辱や拒絶といった心の痛みに過敏に反応してしまうことが示唆されています。

実際、社会的に仲間外れにされた場面で、痛みに関わる脳の部位が通常より強く反応することも確認されています。

つまり、傷つきやすいからこそ怒りやすい可能性があるのです。

このMAOA-L型自体は決して珍しいものではありません。

欧米では約3人に1人がこの変異を持つと報告されており、ごくありふれた体質なのです。

ただし、この遺伝子があるからといって誰もが乱暴になるわけではありません。

その影響が現れるかどうかは環境や状況次第です。

幼少期に虐待を受けたグループではMAOA-L保持者が将来暴力に走る割合が際立って高かった一方、虐待なく育った場合はたとえこの遺伝子を持っていても反社会的行動に出る人はほとんどいませんでした。

要するに、遺伝子は火薬のようなものですが、それに火をつけるかどうかは周囲の環境なのです。

「戦士の遺伝子」が怒りっぽい型である人が、さらにオキシトシン関連の遺伝子でストーカーを引き起こしやすい型を持っており、恵まれない環境で暴力を抑えることを学ばなかった場合……恋人から拒絶されたことで激昂し、過剰なつきまといや暴力が絡む重大な事件へ発展するというシナリオもあり得るでしょう。

ただストーカーによる重大な殺傷事件は、オキシトシンや戦士の遺伝子だけで全て解説できるわけではありません。

安らぎを与えるセロトニン系や興奮を起こすドーパミン系など人間の感情に作用する遺伝子は膨大な数に及ぶからです。

そのため「この遺伝子がある人はストーカーになりやすい」という傾向はあっても、「この遺伝子のせいでストーカーになった」と全ての責任を特定の遺伝子のせいにすることはできないのです。

では結局「ストーカー遺伝子」という言葉は意味があるのでしょうか?

次ページ4:結び『ストーカー遺伝子』は存在するのか?

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