“油を鎧う粒子”が示した脱・化学洗剤の道筋

木材由来のセルロースナノ繊維とトウモロコシたんぱく質という再生可能資源から作られた本洗剤は、生分解性が高く環境中に残留しにくい点で大きな利点があります。
万一洗浄後に微量が下水中に流出しても、天然の繊維素や蛋白質であれば最終的に微生物によって分解され、従来問題となっていたような難分解性の合成化学物質や微小プラスチックを環境中に残す心配がありません。
また本洗剤は油汚れを物理的に浮き上がらせて除去するしくみのため、化学的な界面活性剤に比べて素材表面へのダメージが少なく、衣類の色落ちや繊維劣化、肌への刺激を抑えられる可能性があります。
実際、洗浄後の布に複合材料の残留が見られず繊維構造へ影響しないことが確認されており、安全に使用できることが示唆されます。
加えて原料が豊富で安価に入手できる点も重要です。
セルロースナノ繊維は木材パルプから大量生産が可能で、日本を含む各国で実用化研究が進む素材です。
ゼインもトウモロコシ由来廃棄物から得られる副産物として工業利用されています。
研究チームは、これら身近な生物資源から作った新洗剤は「安全で費用対効果が高く、持続可能な市販洗浄剤の代替となり得る」と述べています。
一方で課題として、本洗剤は十分な洗浄効果を発揮するため比較的高い濃度(本研究では5重量%)が必要だった点が挙げられます。
市販の合成洗剤は通常0.5~1%程度の希釈濃度で使われることが多いため、同等の条件で性能を発揮するにはさらなる改良が望まれます。
例えば、セルロースナノ繊維とゼイン複合粒子の比率やサイズを最適化することで、より低濃度でも汚れへの付着力を高める工夫が考えられます。
また今回は超音波洗浄機や静置による実験でしたが、実際の洗濯機や食洗機などの動的な環境での性能評価も今後の課題です。
今後は酵素や他の天然洗浄成分との組み合わせによる相乗効果の検討や、ゼイン以外の生分解性粒子との組み合わせなど、実用化に向けた発展も期待できます。
環境に優しく、しかも汚れ落ちのよい洗剤は多くの消費者が望むところであり、本研究で提案されたピッカリングエマルション型の天然洗剤はその有力な候補となりそうです。
研究チームの成果は、合成界面活性剤に依存しない次世代の洗浄技術の可能性を示すものと言えるでしょう。