“たかが捻挫”を覆すエビデンス

本研究では、まず「足首をひねった直後」の患者さんを対象に、その靱帯の回復の様子を超音波検査(エコー)で継続的に測定しました。
具体的には、受傷後の時点で足首にストレスをかけて前後のゆるみ具合を評価する「前方引き出しテスト」を行い、その映像をエコーで撮影しながらどの程度骨と骨の間が開くかを数値化します。
痛みの有無や腫れ具合だけではわかりにくい「靱帯そのものの安定性」を、客観的に捉えられる手法です。
対象となった101名の捻挫患者さんは、靱帯損傷の程度により「軽度(Grade I)」「中度(Grade II)」「重度(Grade III)」の3段階に区分されました。
結果として、軽度の場合でも完全に健常側と同等の安定度に近づくまでには約2週間を要し、さらに部分断裂や完全断裂のレベル(中度・重度)では6週間近くかかるケースが多いことが明らかになったのです。
この結果は「痛みが消えたから1週間ほどで復帰しても大丈夫」という判断が、実は非常にリスキーなことを示します。
つまり、痛みが一時的におさまったとしても、まだ十分に安定していない状態で激しい運動や日常の負荷がかかると、再び捻ってしまったり、長期にわたり不安定さに悩まされるリスクが高いのです。
本研究のエコーによる定量データは、そうした不完全な回復段階での早期復帰に警鐘を鳴らすものといえます。
今後は、目に見えにくい“靱帯の治る速度”を正確に把握することで、一人ひとりの重症度に合わせた復帰計画やリハビリ方法の検討がよりいっそう重要になるでしょう。