自動運転の『第六感』へ――応用と課題

今回開発されたニューロモルフィック視覚デバイスは、将来的に自律走行車やロボットの「目」と「脳」を一つにまとめる技術として大きな可能性を秘めています。
研究チームによれば、この技術を応用することで、自動運転車やロボットが予測困難な環境下でも、危険の兆候をほぼ瞬時に察知し、従来より格段に速い反応が可能になるといいます。
ワリア教授は「こうした応用分野でニューロモルフィック・ビジョン技術が実現すれば、大量のデータを処理せずともシーンの変化をほぼ即座に検出し、飛躍的に迅速な対応ができるようになります」と述べています。
ワリア教授は続けて「それは人命を救うことにもつながり得るでしょう」と強調しています。
共同研究者のアクラム・アル=ホウラニ(Akram Al-Hourani)教授は「人間と密接に関わる製造現場や家庭内でロボットが働く際にも、この技術によって人間の動きを即座に認識・反応できれば、遅延のない自然なインタラクションが可能になるでしょう」と期待を語っています。
このように、本技術は安全性が要求される自律システムや人と協調するロボットにとってゲームチェンジャーとなり得るでしょう。
もっとも、現在のチップは概念実証段階の単一ピクセルデバイスであり、実用化に向けては課題も残ります。
ワリア教授も「我々のシステムは脳の神経処理の一部を模倣したに過ぎず、現時点ではまだ簡易化されたモデルです」と慎重に述べています。
しかし研究チームはすでに、この単一ピクセルのチップを格子状に多数並べたピクセルアレイへ拡張する研究に着手しており、オーストラリア研究評議会からの助成を受けて開発を進めています。
今後はデバイスの低消費電力化を一層追求しながら、より複雑な実世界の視覚タスクに対応できるよう最適化を図っていく計画です。
さらに研究チームは、今回用いたMoS₂以外にも材料の可能性を模索しており、将来は赤外線領域で動作するデバイスや有毒ガス・病原体のリアルタイム検知といった応用も検討しています。
ワリア教授は「私たちの技術は従来のコンピューティングを置き換えるのではなく、補完するものだと考えています。従来型のシステムにも得意な処理は多くありますが、私たちのニューロモルフィック技術はエネルギー効率やリアルタイム性が決定的に重要な視覚処理の場面で優位性を発揮できます」と述べています。
従来型のシステムが自動運転の5感的なものを担うとしたら、脳型チップはそれにプラスアルファとなる第6の処理システムとなれるわけです。
もしデータを学習することで進化するAIと人間の脳のように疑似的な神経回路を持つ脳型チップを組合わせることができれば、より高度な機械知性を想像できるかもしれません。