カフェインは睡眠中の脳を「覚醒」させていると判明
カフェインは睡眠中の脳を「覚醒」させていると判明 / Credit:Canva
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カフェインは睡眠中の脳を「覚醒」させていると判明 (2/3)

2025.06.09 17:00:18 Monday

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カフェインは睡眠中の脳でも覚醒状態にしてしまうと判明

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図は「カフェインを飲んだ夜」と「プラセボの夜」の脳波パワーを、睡眠段階(ノンレムとレム)ごと・周波数帯(デルタ、シータ、アルファ、シグマ、ベータ)ごとに頭頂図で比べたものです。左端の列が統計的な差を色で示し、青はカフェインでパワーが下がった領域、赤は上がった領域を表します。ノンレム睡眠では、脳の中心〜頭頂部を中心にデルタ・シータ・アルファが広く青く染まり、深睡眠を支える低周波が抑え込まれたことがひと目でわかります。一方、ベータ帯は前頭〜頭頂に真っ赤に広がり、日中の覚醒に関わる高速リズムが増幅していました。対照的にレム睡眠では、目立つのはシータ帯の青みで、後頭〜側頭にかけてパワーが落ち、その他の帯域はほぼニュートラルでした。中央と右の列は機械学習(SVM と LDA)が「これはカフェイン条件か」を当てた精度を緑の濃淡で描いたもので、ノンレムでは緑が濃く分布し、統計的検定で差が出た場所と重なっています。つまり低周波抑制とベータ増強というカフェイン特有のパターンが、統計解析でもAI判定でも再現性高く捉えられたことを示しています。図中の灰色と白のドットはそれぞれ p<0.05 と p<0.01 を示す有意点で、ベータの増強とデルタ・シータの減衰が特に強い信頼度で現れていることが読み取れます。/Credit:Communications Biology

研究チームは健常な成人40名を対象に、一晩はカフェインを摂取した場合、別の晩はプラセボ(偽薬)を摂取した場合の脳波(EEG)を比較しました。

被験者は若年層22名(20〜27歳)と中年層18名(41〜58歳)の計40名に分けられ、それぞれ就寝の3時間前と1時間前にカフェインカプセル(合計約200 mg)または偽薬カプセルを服用しました。

一晩中の脳の電気活動を20チャンネルのEEGで記録し、大規模なデータ解析とAI(人工知能)技術を駆使して微細な変化を検出したといいます。

その結果、予想以上に顕著な違いが明らかになりました。

筆頭著者のフィリップ・トールケ氏は「高度な統計解析とAIを用いて脳活動の微妙な変化を抽出しました。

その結果、カフェインによって脳信号の複雑さが増大し、神経活動がよりダイナミックかつ予測困難なパターンに変化することがわかったのです。

特に、記憶の固定化や脳の回復に重要な深いノンレム睡眠でその傾向が顕著でした」と述べています。

実際、カフェインを摂った夜の脳波を詳しく見ると、深睡眠で顕著になるゆっくりしたデルタ波やシータ波を抑制し、代わりにベータ波(覚醒時や思考時に現れる高速な脳波)が増加していました。

研究者らは「これらの変化から、カフェイン影響下の脳は睡眠中であっても通常より覚醒的で回復不足の状態にあることが示唆されます。このような脳波リズムの変化が、カフェインによって夜間の脳の回復効率が低下し、記憶処理の効率まで低下しうる理由を説明しているのかもしれません」とコメントしています。

実際過去に行われたいくつかの研究では、深い眠りで脳が十分休めないままでは、身体の疲労回復や記憶の整理整頓といった睡眠本来の役割が損なわれてしまう可能性も指摘されています。

さらに興味深いことに、こうしたカフェインの影響は若者ほど強く現れることもわかりました。

20〜27歳のグループでは、41〜58歳のグループに比べて脳波指標の変化量が大きく、特にレム睡眠(夢を見る段階)の活動に顕著な差が見られたのです。

研究陣はその理由について、脳内のアデノシン受容体(カフェインが作用する眠気物質の受容体)の量が年齢とともに減少するためではないかと考察しています。

実際、キャリアー教授は「加齢に伴いアデノシン受容体の密度は自然に低下します。

そのため年配者ではカフェインがそれらをブロックして脳の複雑さを高める効果も弱まり、中年層でカフェインの影響が小さかった一因と言えるでしょう」と説明しています。

若いほど脳はカフェインの刺激作用を受けやすい可能性があり、慢性的なカフェイン摂取による影響も世代によって異なるかもしれません。

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