軽ダンベルで筋肥大――最新研究で重さ神話崩壊
軽ダンベルで筋肥大――最新研究で重さ神話崩壊 / Credit:Canva
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軽ダンベルで筋肥大――最新研究で重さ神話崩壊 (3/3)

2025.06.09 22:00:09 Monday

前ページ軽すぎて笑った? それ、筋肉つきます

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限界まで追い込む──それだけでいい?

限界まで追い込む──それだけでいい?
限界まで追い込む──それだけでいい? / Credit:Canva

今回の研究により、「限界まで追い込むのであれば軽い重量でも筋肉を太くできるし、ある程度の筋力もつけられる」ことが示されました。

従来から知られていた「低負荷でも筋肥大はできる」という現象が、筋力の向上(特に複数関節を動員する大きな筋力発揮)にも及ぶ可能性が示唆された点で、画期的な知見と言えます。

研究チームも「これまで『重さは違っても筋肥大は同じ』と言われてきたが、多関節の筋力も同様に伸びる可能性がある」と述べ、軽負荷トレーニングによる筋力アップ効果に注目しています。

特にトレーニング経験者でこの傾向が確認されたことで、「高重量を扱わなければ筋肉も筋力も伸びない」という一般的な常識を改める必要性が出てきたと言えるでしょう。

では、なぜ軽い負荷でも筋肉が発達できるのでしょうか。

その鍵はトレーニングの「努力強度」にあります。

筋肉を大きくするためには筋線維に十分な負荷刺激を与える必要がありますが、それは必ずしも重いバーベルでなくても構いません。

重要なのは筋肉を疲労困憊させることです。

軽い重量でも回数を重ねていって最後には持ち上げられなくなる(オールアウトする)状態に達すれば、筋線維は十分な刺激を受けたことになります。

今回の結果はまさにその理論を裏付けており、研究者らは「広い反復回数の範囲で筋肥大は達成可能である。ただし努力を惜しまず各セットを限界まで行った場合に限る」と強調しています。

適切なフォームを保った上で限界まで追い込むことさえできれば、重量設定そのものは柔軟でよいというわけです。

これはトレーニング方法の幅を広げる心強い知見です。

さらに今回の研究では、軽負荷トレーニングによって筋肉中のサテライト細胞が増加することも確認されました。

しかもその増え方は高負荷の場合と変わらず、細胞レベルでも軽い重量のトレーニングが効果を発揮していることを示しています。

このような分子生物学的裏付けが得られたことにより、「重い重量を使わないと筋肉が本当に大きくならないのではないか」という疑念に対しても科学的な説明がつきます。

実際、筋肉の成長にはサテライト細胞の役割が重要であることが知られており、筋線維に新たな核(マイオニュークレイ)を供給して筋肥大を可能にするプロセスに関与します。

今回、高負荷・低負荷の双方で遅筋線維のサテライト細胞プールが拡大したことは、軽い負荷でも筋肉の基礎的な適応メカニズムがしっかり働いていることを意味します。

研究チームはまた、本研究の実験デザインが実際のトレーニング現場に即したものである点を強調しています。

今回の被験者は両脚でそれぞれ異なる負荷を試しましたが、いずれも毎セット限界まで行うという点では共通していました。

総ボリュームは軽負荷が1.4〜2.9倍と大きくなりました。これは研究者が“現場同様にセットはそろえ、ボリュームは結果として差が出る”設計を意図したためです。

これは通常の筋トレでも行われる方法であり(高重量ならセットあたりの回数が少なく、低重量なら多くなる)、意図的に総ボリュームを制限しないことで現実的な条件を再現しました。

その結果、低負荷条件が本来持っている効果を引き出せたと考えられます。

研究者らは「本研究のアプローチは“現場の筋トレ”そのままで、複数セットを行う実際のシナリオを正確に反映している」と述べています。

言い換えれば、研究室レベルの実験ではなく現実のジムでのトレーニングそのままの条件で比べても、軽い負荷は十分に健闘したということです。

ただし、高負荷を使う利点が全く無くなったわけではありません。

今回、レッグエクステンション(膝関節の伸展動作)の筋力向上では高負荷の方が優れていましたが、これは動作が単関節で神経系の適応が大きくものを言う場面では依然として高重量が有利なのかもしれない、と研究チームは分析しています。

高重量を扱うことでより大きな神経系の興奮や筋出力の向上が得られ、特に特定の筋肉だけを使う種目ではその差が表れやすい可能性があります。

一方で、複数の筋肉・関節を使う複雑な種目では、高重量・低重量いずれの場合も全身的な適応(筋肥大やテクニックの向上など)が作用し、結果として筋力の伸びに大差がなくなると考えられます。

実際、先行研究でも未熟練者に対しては高重量の方が筋力向上に有利とされてきましたが、熟練者では低重量でも工夫次第で同等の効果が得られる可能性が示されています。

筋力発揮のメカニズムは一様ではなく、筋肥大によるもの、筋線維の動員効率が上がるもの、神経系の順化によるものなど様々ですが、軽負荷トレーニングは主に筋持久力や筋肥大を通じて間接的に筋力を底上げし、高負荷トレーニングは神経的適応で直接的に筋力を引き出す――といった違いがあるのかもしれません。

この点については今後の研究課題ですが、少なくとも「高重量でなければ筋力はつかない」という伝統的な信念は必ずしも当てはまらないことを本研究は示唆しています。

重いバーベルを持ち上げるのは怖い、器具がない、自宅で手軽に鍛えたい――そうした事情でトレーニングを諦めていた人々にとって、今回の結果は希望を与えるものです。

実際、著者らは「筋肉を大きくするのに重い重量は必ずしも必要ではない。これはアスリートだけでなく一般の人々にも当てはまる重要な発見だ」と述べています。

筋肉さえ疲れるまで追い込めば、自分にとって20〜30回で限界が来る重さ(例:5 kg前後の人もいる)でも効果を得られる可能性があります。

私たちの身体は思っているより柔軟で、多様なアプローチに適応できるようです。

「ローマに通じる道は多い」ということわざがありますが, 研究チームも今回の成果をまさにこの言葉で表現し、異なる負荷設定でも目標に辿り着けることを強調しています。

筋肉を太く強くする方法は一つではありません。

自分に合った道を選び、しっかり継続することが肝心だと言えるでしょう。

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軽ダンベルで筋肥大――最新研究で重さ神話崩壊 (3/3)のコメント

めゃ

低重量高回数では筋肥大しないという言説が通説になっているという前提に驚きです。
それでも当然筋肥大するという事が常識だと思っていました。ただそれだけだと単純に時間がかかることや、刺激に慣れてしまうためそれ以の複数のアプローチをとっている人が殆どだと思うのですが…

ゲスト

結局は疲れるまでやらないといけないというきつい現実…。
楽はできないのね…。

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