私たちはなぜルールを守るのか?
日常には無数のルールがあります。
法律、マナー、校則、職場ルール……書かれているものもあれば、暗黙の了解も含まれます。
私たちはこれらに縛られ、また守ることで秩序を維持しています。
しかし、全てのルールが合理的とは限らず、中には「守っても意味がないのでは?」と思うようなものもあります。
では、どうして人は、時に無意味にも思えるルールを守るのでしょうか。

この疑問に対し、これまで社会科学はさまざまな仮説を立ててきました。
例えば、「罰を恐れるから」、「他人の目があるから」、「人に迷惑をかけたくないから」、「“従うべき”という道徳的信念があるから」などです。
そこで今回の研究では、「人がルールにどれだけ従うかは4つの要素によって決まる」という考えである「CRISPモデル」を開発しました。
その1つ目は、他の人がどう思おうと関係なく「ルールだから守るべき」と感じる内側からの気持ちであり、これをルールに対する敬意(Respect)と呼びます。
2つ目は、罰を受けるかもしれない、ご褒美がもらえるかもしれないといった、外からの動機づけであり、これはインセンティブ(Incentives)と呼ばれます。
3つ目は、周囲の人が「このルールは守るべきだ」と思っていたり、実際に守っていたりすることから生まれる“空気”のことであり、これを社会的期待(Social Expectations)と呼んでいます。
4つ目は、自分の行動が他人に迷惑をかけるかどうかを気にする気持ちであり、これは社会的な配慮(Social Preferences)として表現されました。
研究チームは、この4つの心のはたらきが重なり合うことで、人はルールを守るかどうかを決めていると考えました。

そしてこのCRISPモデルを検証するため、1万4000人以上を対象に、ある実験を行いました。
その実験内容は非常にシンプルです。
参加者全員はオンラインでテストに参加し、マネーユニット(MU)という通貨が与えられます。
そして画面上で横断歩道を渡るというゲームを行います。
最初に与えられる20MUは、横断歩道を渡り終えるまで1秒ごとに1MU減少するため、参加者はできるだけ早く渡ることでより多くの通貨を入手できます。
しかしこのゲームには唯一のルールがあります。
それが、「赤信号が表示されている間は止まり、青になるまで待ってから進む」というものです。
当然ながらこのルールを無視すれば、参加者はより多くの通貨を入手できます。
では、どんな結果になったでしょうか。