腐肉食動物の減少は人間の病気リスクを高める

大型の腐肉食動物の減少は、私たち人間に大きな問題をもたらしています。
ハゲワシやハイエナのような腐肉食専門動物は、ゾウや牛など大型動物の死骸も短時間で処理する能力を持ちます。
このような処理が遅れたり行われなかったりすれば、死骸は腐敗し、疫病の原因となる細菌やウイルスが拡散するリスクが高まります。
一方で中型・小型の腐肉食動物たちは、この役割を十分に担えません。
死骸をそれほど多く食べることができず、雑食であるため他の食料でも空腹を満たしてしまうからです。
しかもネズミや野良犬は、狂犬病やレプトスピラ症、ブルセラ症など、人間に感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)の保有者でもあるため、その個体数が増えることで、感染症リスクを高めてしまう恐れがあります。
このような悪循環を裏付ける実例も存在します。
たとえば、1990年代のインドでは、家畜に使われた薬剤ジクロフェナクがハゲワシに腎不全を引き起こし、致死率が非常に高くなったため、個体数が激減しました。

その結果、死骸を処理する役割を担う存在がいなくなり、野良犬が急激に増加しました。
この影響で、1992年から2006年の間に約3900万件の犬咬傷と、4万8000人の狂犬病死者が発生したと推定されています。
薬剤の使用が制限された後、ハゲワシの回復が確認されたことで、腐肉食動物の重要性が再認識されました。
加えて、ハゲワシやハイエナが私たちの健康に良い影響をもたらしていることも研究で分かっています。
たとえば、エチオピアのメケレでは、ブチハイエナが年間200トン以上の家畜死骸を処理し、炭疽菌や牛結核のヒトおよび家畜への感染拡大を防いでいると考えられています。
このように専門性の高い腐肉食動物は、「自然界の掃除屋」として働いており、私たちの健康を守っているのです。
では、ハゲワシやハイエナなどの腐肉食動物の減少が人間の健康リスクを高めている現状において、私たちには何が求められているでしょうか。
研究チームは、生息地保護や密猟の防止、薬剤使用の見直し、そして社会的イメージの改善が急務だと強調します。
特に重要なのは、「腐肉を食べる動物=不潔で危険」という認識を改めることです。
例えば、教育活動や動物ドキュメンタリーでのポジティブな紹介などが有効かもしれません。
ハゲワシが空を舞っている光景は、不気味どころか、健全な生態系が保たれている証拠なのかもしれません。
自然界の掃除屋を大切にすることは、私たちの命を守ることにもつながっているのです。
不潔というより死体の肉を漁ることから死の象徴のように思われて嫌がられているのではないかと。