救える命を地域で見捨てないために

今回の研究が示したのは、交通事故で心肺停止になった際に「命が助かるかどうか」を決めている最大の要因が、実は患者自身の状況よりも、その地域にある医療体制や搬送システムにあるということです。
つまり、どんなに事故現場で最善を尽くしても、その地域に十分な救命設備がなければ、助かる確率が低くなってしまうという、非常に重要な問題を浮き彫りにしています。
実際に研究を主導した新潟医療福祉大学の安達哲浩講師は「地域による医療アクセスの格差”が生存に大きく影響していることが分かりました。どの地域にいても適切な救命処置が受けられる体制づくりが急務です。救急救命学科の学生にも、このような現実に目を向けながら、現場での判断力と行動力を養ってもらいたいと願っています。」と述べています。
私たちは普段、交通事故と聞けば「自分の運転が悪くなければ大丈夫」と考えるかもしれません。
しかし、もし事故が起きたときに「自分が住む地域には高度な治療が受けられる病院がない」「救急隊が十分な医療を提供できる状況にない」という現実があるとしたら、それはとても恐ろしいことではないでしょうか。
今回の研究が明らかにしたのは、そうした「命の格差」が日本国内で現実に存在するというショッキングな事実です。
では、こうした地域間の「救命格差」を解消するには、一体どうすれば良いのでしょうか?
研究チームは、この地域差を埋めてすべての患者が平等に救命のチャンスを得られるように、具体的な改善策を提言しています。
まず提案されているのが、地域を超えた広域的な救急搬送ネットワークを整備することです。
現状では、患者が事故に遭った地域に高度な医療施設がない場合、搬送先の病院を探すのに時間がかかってしまいます。
これはしばしば「救急車のたらい回し」として問題になります。
そのため、近隣地域の病院との連携を強化し、患者を迅速に高度な医療施設に搬送するための広域的な連絡体制や、リアルタイムで病床の空き状況を共有できるシステムを作ることが重要です。
ドクターヘリを活用するなど、新しい技術や手段を取り入れて、迅速な搬送ができるようにすることも求められます。
また、地域ごとに医療施設や人員配置が異なるため、それぞれの地域特性に合った救急医療の仕組みやトリアージ基準(患者の重症度に応じて治療の優先順位を決める仕組み)の見直しが必要です。
今回の研究成果をもとに、今後は行政や病院同士の連携を強化し、地域間の救急医療の格差を是正する取り組みがさらに進むことが期待されます。
緊急時への備えはいわゆる無駄の極みですからね。
余裕がないとできないことですから余裕がなくなってきている今では難しそうです。