磁石に付かない金属も実は磁場に反応していたと判明
磁石に付かない金属も実は磁場に反応していたと判明 / Credit: Paz Roth
physics

磁石に付かない金属も実は磁場に反応していたと判明 (2/3)

2025.07.25 21:00:22 Friday

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磁石にくっつかない金属も磁場に反応することを実証

磁石にくっつかない金属も磁場に反応することを実証
磁石にくっつかない金属も磁場に反応することを実証 / Crdit:Canva

どのようにして、「磁石につかない金属」からの微かな磁気信号をキャッチしたのか?

研究チームはまず、磁気を調べるための「耳」となる観測技術の開発に着手しました。

それにあたりベースとなったのが「磁気学カー効果(MOKE)」という測定方法です。

磁気光学カー効果とは、磁性体(磁気を持つ物質)の表面にレーザー光を当てたときに、光の反射の仕方や偏光の方向が微妙に変化する現象です。

わかりやすくイメージすると、湖の水面が風で細かな波を立てるように、磁場の影響によって物質表面で反射されるレーザー光にもごくわずかな“偏光の変化”が生じます。

(※「磁場をかける➔磁石にくっつかないはずの金属の表面の電子に揺れ➔レーザー照射➔反射されるレーザーにも揺れ」という感じです)

このレーザー光の「揺らぎ」を詳しく観察することで、磁性体の内部で電子がどのように磁場に反応しているかを知ることができるのです。

しかし、このカー効果は鉄のように強い磁気を持つ物質では観察が容易でしたが、金や銅など磁気を持たないとされる物質ではその変化が小さすぎて、従来の方法では検出できなかったのです。

そこで研究チームが開発したのが、「フェリスMOKE」という新しい手法でした。

この「フェリスMOKE」では、従来のような巨大な電磁石や複雑な配線を使いません。

その代わり、小型の永久磁石を円盤状に並べ、それを高速回転させることによって、小さいながらも強く変化する磁場を作り出しました。

イメージとしては、遊園地の観覧車(英語で「フェリス・ホイール」)のように磁石が回転し、その回転によって磁場が一定の周期で強くなったり弱くなったりします。

さらに、この回転する磁石が生み出す磁場の中に、青色のレーザー光(波長440ナノメートル)を連続的に照射しました。

なぜレーザー光を使うかというと、レーザーは非常に精度が高く、わずかな光の変化も精密に検出できるからです。

つまり、高速回転する磁石で磁場を大きくかつ高速に変化させ、その大きな磁場変動の影響をレーザー光で正確に観察することで、これまで見逃されてきた小さな磁気反応を初めて検出することに成功したのです。

研究チームは、この新しい「フェリスMOKE」を用いて、いくつかの非磁性金属の薄い膜を作り、その表面にレーザーを当てるという実験を行いました。

今回使った金属は、銅、金、アルミニウム、タンタル、そして白金の5種類です。

これらは全て、磁石を近づけてもまったく反応しない、いわゆる「磁気とは無関係な金属」と考えられてきました。

ところが、この新しい測定方法によって、これらの金属の表面からも微弱な磁気信号が確かに検出されたのです。

さらに、この微弱な信号を詳細に調べると、いくつか興味深い特徴が明らかになりました。

最も驚くべきことは、検出された信号の中に、従来は「ただの雑音(ノイズ)」として見逃されてきたような小さな揺らぎが存在していたことです。

そして、このノイズの揺らぎ方が、金属の種類ごとに異なっていることも分かりました。

さらに詳しく分析すると、このノイズの大きさは「スピン軌道相互作用」という量子力学的な性質の強さと関連していることが明らかになりました。

このスピン軌道相互作用というのは、電子が持つ「スピン」という磁石のような性質と、電子が原子のまわりを回転する軌道の運動が互いに影響しあう不思議な現象です。

つまり、これまで実験で捉えられていたわずかなノイズが、実は電子の持つ微小な磁気性質から生まれた「磁気の囁き」そのものであった可能性が明確になったのです。

この驚くべき発見は、「磁石につかない金属」の中にも、これまで見過ごされていた新しい磁気現象が隠れているということを意味しています。

この新たに発見された「磁気の囁き」が私たちに示す、具体的な可能性や影響とはどのようなものでしょうか?

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